極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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[――ひとつお聞きしてもよろしいか?]
[……なんだ]
[あなたのボスは周さんと仰いましたね。下のお名前は何と申されます?]
[ボスの名前だ? そんなことを訊いてどうする]
[大事なことなんです。というよりも興味があると言った方が正しいでしょうか……。実は僕の父も香港ではボスと呼ばれていましてね。あなたのボスとも何らかのお付き合いがあるのではと思ったものですから]
[ボス……だ? いったいどこのボスやら知らんが、アンタの親父さんってのは企業家か何かか?]
 当初聞いていた話と大分食い違うような話向きに男が眉間の皺を深くする。持ち掛けられていた取引では単なる一般人の若い男を金で買わないかという話だった。正直なところ、闇市にでも落として色を売らせるか、臓器を金に変えた後で始末してしまってもいいくらいに思っていたからだ。まさか香港生まれの香港育ちの上、企業家の御曹司だなどとは思ってもみなかったというところなのだ。
 確かにたった今目にしたばかりのゲームの腕前には驚かされるものがあったし、明らかに場慣れしているのは認めざるを得ない。堂々とし過ぎている態度からしていったい何者なのだという疑問も湧いてくる。
 もしも香港の社交界でそれなりの地位がある家柄の息子を売り買いしたとなれば、後々面倒事に発展しないとも限らない。下手をすれば香港を仕切る自分のボスにも迷惑が掛かる可能性が出てくるかも知れないのだ。
 正直なところ、この取引からは手を引いた方が賢明なのではないか――男は迷い始めていた。
 だが、次の瞬間、更に驚かされることになろうとは思いもよらなかった。この得体の知れない若い男がにこやかに放ったひと言で身体中の血の気が引く思いをさせられるとはさすがに想像できなかったからだ。
[僕の父は周隼ジォウ スェンといいます。香港では周りの方々にボスと呼ばれているのですよ]
 ですからきっとあなたのボスとも何らかの繋がりがあるのではないでしょうか――、そう言わんばかりに微笑まれて、男はもちろんのこと、他の二人のマフィアたちも絶句させられてしまった。
[周隼……だと?]
[冗談だろ……]
 台湾とマカオの男たちが口を揃えて後退る。裏社会に生きる以上、隣国を治めるマフィア頭領の名前を知らないわけもないからだ。香港の男にとっては大きく瞳を見開いたまま、瞬きさえもままならずといったふうであった。
[周隼……だ? アンタ、からかってんじゃなかろうな……。そいつぁウチのボスの名だぜ。いったい……]
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