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孤高のマフィア
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「実はな、冰。お前が周の籍に入ってくれた時に親父と兄貴からも言われていたんだが……。俺たち男三人の背中に刺青が入っているように継母と義姉さんの肩にもファミリーの証となるものが掘ってあるんだ」
「え……!? そうなの?」
冰は驚いた。
「まあ彫り物といっても俺たちのとは比べ物にならねえくらい小さなものだがな。周家の妻である証として蘭の花が彫ってあるんだ」
「蘭の花……。あ! それってお母様の名前の……?」
「そうだ。香蘭から取った蘭の花模様だ。継母は親父の字にちなんだ黄色い蘭。義姉さんは兄貴の字――黒龍――にちなんで黒い蘭だ。それで……俺は白龍だからお前を正式に娶る際、肩には白い蘭を入れないかと言われたんだが」
周としてはいくらファミリーの証といえど冰の身体に傷を付けるのを躊躇ったのと、これまでは裏社会とは関係のない人生を送ってきた冰のことを考えれば、刺青を入れろとはさすがに言い出せなかったというのだ。だが、この先もしも今回のような非常事態に陥り、自分が側で守ってやれなかった場合のことを考えたら、揺るがないファミリーの証が冰の命を救ってくれるかも知れないと思い始めたのも実のところだと言っては、少々切なげな笑みをこぼした。
「だがまあ……ファミリーの証なら彫り物でなくとも、例えば指輪とかそういった物で代替えがきくからな」
早い内に何か手立てを考えようと言う周であったが、その直後、思いもよらない返事が返ってきて驚かされてしまった。
「いいよ。俺、白龍がいいって言ってくれるなら、俺の肩にも白蘭を彫ってもらいたい」
「冰……お前……」
「っていうか……俺なんかが本当にファミリーの大切な証をいただいてもいいんだろうかって……まずはそっちの方が心配だけど……」
周はめっぽう驚いてしまった。すぐには言葉も出てこなかったほどだ。
「……いいのか?」
「白龍と、それにお父様たちのお許しがいただけるなら……俺は嬉しいよ」
「冰、お前……」
周はこれ以上ないくらいに大きく瞳を見開きながら、今一度強く強く愛しい者を抱き締めた。
「すまない、冰……。俺たちの我が侭でお前の身体に傷を付けるなんざ……」
「ううん。そんなことは全然いいんだ。ただ本当に俺なんかが大切なファミリーの証をいただいてもいいのかなって、それだけ。本当にいいなら俺はすごく嬉しいよ」
「冰……! すまねえ。本当に……!」
「そんな謝ったりしないで」
「黄のじいさんにも何と言い訳していいか……」
もしも黄老人が生きていれば、冰を娶る際には裏社会に生きる自分たちの掟など全ての事情を打ち明けて、赦しを請うたことだろう。冰にもそんな亭主の気持ちがよくよく理解できるのだった。
「白龍……。じいちゃんのことまで考えてくれるなんて本当に……俺こそ何て言ったらいいか」
しばし言葉にならないままで二人はただただ抱き合い、互いの温もりを確かめ合ったのだった。
「え……!? そうなの?」
冰は驚いた。
「まあ彫り物といっても俺たちのとは比べ物にならねえくらい小さなものだがな。周家の妻である証として蘭の花が彫ってあるんだ」
「蘭の花……。あ! それってお母様の名前の……?」
「そうだ。香蘭から取った蘭の花模様だ。継母は親父の字にちなんだ黄色い蘭。義姉さんは兄貴の字――黒龍――にちなんで黒い蘭だ。それで……俺は白龍だからお前を正式に娶る際、肩には白い蘭を入れないかと言われたんだが」
周としてはいくらファミリーの証といえど冰の身体に傷を付けるのを躊躇ったのと、これまでは裏社会とは関係のない人生を送ってきた冰のことを考えれば、刺青を入れろとはさすがに言い出せなかったというのだ。だが、この先もしも今回のような非常事態に陥り、自分が側で守ってやれなかった場合のことを考えたら、揺るがないファミリーの証が冰の命を救ってくれるかも知れないと思い始めたのも実のところだと言っては、少々切なげな笑みをこぼした。
「だがまあ……ファミリーの証なら彫り物でなくとも、例えば指輪とかそういった物で代替えがきくからな」
早い内に何か手立てを考えようと言う周であったが、その直後、思いもよらない返事が返ってきて驚かされてしまった。
「いいよ。俺、白龍がいいって言ってくれるなら、俺の肩にも白蘭を彫ってもらいたい」
「冰……お前……」
「っていうか……俺なんかが本当にファミリーの大切な証をいただいてもいいんだろうかって……まずはそっちの方が心配だけど……」
周はめっぽう驚いてしまった。すぐには言葉も出てこなかったほどだ。
「……いいのか?」
「白龍と、それにお父様たちのお許しがいただけるなら……俺は嬉しいよ」
「冰、お前……」
周はこれ以上ないくらいに大きく瞳を見開きながら、今一度強く強く愛しい者を抱き締めた。
「すまない、冰……。俺たちの我が侭でお前の身体に傷を付けるなんざ……」
「ううん。そんなことは全然いいんだ。ただ本当に俺なんかが大切なファミリーの証をいただいてもいいのかなって、それだけ。本当にいいなら俺はすごく嬉しいよ」
「冰……! すまねえ。本当に……!」
「そんな謝ったりしないで」
「黄のじいさんにも何と言い訳していいか……」
もしも黄老人が生きていれば、冰を娶る際には裏社会に生きる自分たちの掟など全ての事情を打ち明けて、赦しを請うたことだろう。冰にもそんな亭主の気持ちがよくよく理解できるのだった。
「白龍……。じいちゃんのことまで考えてくれるなんて本当に……俺こそ何て言ったらいいか」
しばし言葉にならないままで二人はただただ抱き合い、互いの温もりを確かめ合ったのだった。
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