極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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 翌日はいよいよ屋形船での花見である。鐘崎の知り合いの船宿が気を利かせてくれて、一般の乗船客とは別の場所から乗り降りできるように計らってくれたので、一同は車で指定場所まで向かうこととなった。門前仲町の繁華街から車で少し行った先にある人目に付きづらい静かな所だ。鐘崎組もだが、今回は香港から一大マフィアのファミリーが来ると聞いて、船宿が格別の計らいで持てなそうとしてくれたことが有り難かった。
 河岸にはずらりと並んだ桜がまさに満開を迎えていて、昨夜の社内イベント同様天気も上々、最高の花見日和である。
 香港からやって来たファミリーも全員着物姿で乗船し、日本の春を満喫することになったのだった。
「父上、兄上、大変よくお似合いです」
 彼らの和服は以前から何かの機会の為にと冰が真田と一緒に呉服店で選んでいたそうだ。隼たちもその気遣いを大層喜び、香蘭と美紅などは歩き方まではんなりとして、まさに仲良きかなファミリーの幸せの絶頂という感じで誰もが情緒を楽しんだ。
 屋形船が走り出すと、船宿が腕によりをかけてこしらえてくれた料理と酒が振る舞われ、昨夜のディナーとは打って変わって純日本風の膳がずらりと卓上に並ぶ。
「まあ、熱々だわ! これは日本の天麩羅ね!」
「マム、見て! こっちはお塩と……これは天つゆね? いろいろな味が楽しめるなんて最高だわ!」
「ホントね! 衣がサックサクで美味しいわー!」
 次々に配られる揚げ物に箸をつけた香蘭と美紅が感嘆の声を上げている。
「天麩羅はこの船の中で揚げてくださっているんですよ」
 鐘崎が隼と風に灼がてらそう説明する。周は鐘崎の父の僚一と源次郎らに熱燗を注ぐといった調子で、息子たちの細やかな気遣いに父親世代も頼もしげだ。紫月と冰は女性陣の香蘭と美紅の両脇で、花見にはもってこいの桜餅などを勧めては、本格的な薄茶を点てたりして盛り上がっていた。
「ウチの組員の実家が茶道の師範をしてましてね。今日の花見の為にと奴さんに薄茶の点て方を教わってきたんですよ」
 鐘崎組に新しく入った徳永竜胆という男は茶道家の息子である。桜餅には薄茶だろうということで、紫月が徳永から教わってきたのだそうだ。
「付け焼き刃だからなぁ、上手くできてっか分からないッスけど……」
 真剣な様子で一生懸命茶を点ててくれた紫月に、
「美味しい!」
「まあ、本当ね! 紫月、とっても上手よ!」
「ホント! 桜餅にぴったりですね! さすが紫月さんです!」
 女性たちと冰にも絶賛されて、紫月は照れ臭そうにしながらも満面の笑みを見せた。
 船は隅田川を走り、途中で橋をくぐるごとに皆からは歓声が湧いた。両岸の桜が闇夜の中、真っ白に浮かび上がってまさに溜め息の出るくらい見事な景色である。海へ近付くにつれ、大都会東京の夜景が煌びやかに広がっては、花の情緒とはまた違った感動を生み出してくれる。一同は最高のひと時を楽しんだのだった。

 そんな幸せに水を刺すような一報が入ったのは、船が岸に戻ってきた直後のことだ。周宛てに掛かってきた一本の電話――相手は警視庁捜査一課の丹羽修司であった。
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