極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
654 / 1,212
孤高のマフィア

77

しおりを挟む
『周か!? 今は家か? 会社か?』
 ろくに挨拶もなしで緊張気味の声がスマートフォンの向こうで訊く。
「えらく藪から棒だな。今は外だ。ちょうど屋形船での花見を終えたところだが――」
 周が電話に出た時はちょうど下船し終わって、鐘崎と共に船主に御礼の挨拶を述べながら雑談をしていた最中だった。他の皆は船を降りた順から迎えの車が待っている通り沿いまで歩きがてら、河岸の桜の前で記念撮影などを行っていた。
 周と鐘崎の父親たちと源次郎などは息子と共に船宿のスタッフや船頭らと世間話をしていたが、紫月と冰は母親の香蘭と姉の美紅たちと記念撮影で盛り上がっていて、執事の真田がシャッター係を引き受けたりしながら、先に車までの道のりを散歩していたようだ。つまり、夫婦は旦那同士・嫁同士といった具合で離れた位置にいた。
 電話の向こうでは丹羽が何やら慌てた調子だったので、周はすぐさま通話をスピーカーへと切り替えた。緊急事態であるなら側にいる鐘崎らにも直に聞いてもらった方が話が早いからだ。

『たった今、福岡県警から連絡があった。香山が姿を消したそうだ』

「何……ッ!? どういうことだ! ヤツはまだ勾留中じゃねえのか!?」

 今は県警が事情聴取をしているはずである。まさかだが、脱走されたとでもいうのだろうか。だとすれば不手際にもほどがある。だがそうではなかったらしい。
 丹羽の話では、香山が今回の件を拉致犯の男らに依頼したという明確な証拠が掴めなかった為、一旦は家へ帰し、交代で見張りの刑事を二人ずつつけていたというのだが、今朝方再び聴取に香山宅を訪れたところ、もぬけの空だったというのだ。家に人の気配はなく、本人はもちろんのこと女房子供も不在とのことだった。連絡が今になったのは、慌てた県警が独自に捜して歩いていたからだそうだ。
「バカを抜かしてんじゃねえ! 香山が家へ帰されたなんぞ俺は聞いてねえぞ!」
 さすがに周が声を荒げたが、丹羽のところへすら報告が上がってきていなかったのだから仕方がない。
『現在鉄道各社とフェリーや空路の方でも香山の足取りがないかどうか洗っているそうだが、万が一お前らの前に姿を現すかも知れない。十分に注意して欲しい!』
 丹羽はこれからすぐに所轄の警察官を周らのいる船宿に向かわせると言った。
『俺も駆け付けるが、今は練馬だ。少々時間が掛かる』
 警視庁内に居ればまだ早かっただろうが、練馬というなら車で飛ばしてもすぐとはいかないだろう。注意喚起の為にとにかくは電話で知らせてよこしたというのだ。

「話は分かった。もしも香山が俺の前に姿を現したならば、こちらで処理させてもらうぞ」

 周の声音はむろんのこと、その意味は重い。県警の見張りがついていたにも関わらず撒かれたというなら、丹羽も周を責められる立場ではない。だからといって報復などを容認できるとは言い難い。彼にとっても難しい立場なのだ。
『周、気持ちは解る。我々の不手際も謝罪せねばならんが、とにかく……俺が行くまで滅多なことは考えてくれるな』
 それだけ告げると通話は切られた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...