極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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 その後、周は香山が真田を人質に冰を脅している現場の証拠動画を提出した。駆け付けた際、迅速に僚一らが録画していたものだ。また、紫月の方でも香山が現れたと同時に、すぐに自らのスマートフォンの録音ボタンを作動させてくれていたので、最初から最後までの確たる証拠として残すことができたのだ。香山にとって不運だったのは、冰らを襲った時に周をはじめ隼や僚一などプロ中のプロが近くにいたということである。こうしてかねてからの拉致事件と花見に水をさした傷害事件は、ようやく幕引きとなったのだった。



◇    ◇    ◇



 それから一週間が経ち、香港の両親たちも帰国していった周邸にはいつも通りの穏やかな日常が戻ってきていた。真田の怪我もほぼ快復し、これまで以上にはつらつとしてお邸の管理に精を出してくれている。彼にとっては冰が父親同然だと言ってくれたことが格別に嬉しかったようで、より一層主人たちに仕えることが生き甲斐となったようであった。
 そんな中、週末を迎えた周と冰は、いつものように鐘崎邸へと遊びに訪れていた。拉致と花見の時に様々世話になった礼方々の訪問でもある。
 たわいのない雑談に花を咲かせる中で冰がふと珍しいことを口にした。
「やっぱり俺も紫月さんたちみたいに強くなりたいなぁ……」
「いきなりどうした」
 周はもちろんのこと、紫月らも不思議そうに首を傾げる。
「うん、なんていうか……こないだみたいなことがあった場合にさ。ちょっとは応戦できる技っていうか、護身術みたいなの? 俺は腕っ節は弱いし喧嘩みたいな状況になってもどうしていいか分からなくて。男として情けないっていうのもあるけど、もしもっていう時に何もできないんじゃ困るなぁと思ってさ」
 香港にいた頃は黄老人に武術の稽古にも通わせられたことがあったが、まったくといっていいほど身に付かなかったのだと言ってしょげている。
「そりゃまあ、冰君はディーラーの方の修行で目一杯だったろうからさ! あっちもこっちもじゃさすがに大変だったんだろうさ」
 紫月がすかさずフォローを入れてくれたが、確かにできないよりはできた方がいい場合もあることは事実だ。冰にしてみれば花見の時はもちろんだが、里恵子と共に拉致に遭った際にも、万が一の戦闘などが起こった場合には対処のしようがなかったことが悔やまれるわけなのだ。そう考えると今からでも身に付けておくべきではと思ったらしい。
「まあそうだな……。冰も俺と一緒にいる以上、今後もいつまたどんな敵意に巻き込まれるか分からねえからな。この際、冰専用の護衛係をつけることを考えるか」
 周が真面目な顔で考え込んでいる。
「そんな……専用だなんて。そこまでしてもらうなんて申し訳なさ過ぎるよ」
 冰は恐縮しているが、周としては真剣だ。すると鐘崎がクスッと笑みながら提案を口にした。
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