極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
661 / 1,212
孤高のマフィア

84

しおりを挟む
 その後、周は香山が真田を人質に冰を脅している現場の証拠動画を提出した。駆け付けた際、迅速に僚一らが録画していたものだ。また、紫月の方でも香山が現れたと同時に、すぐに自らのスマートフォンの録音ボタンを作動させてくれていたので、最初から最後までの確たる証拠として残すことができたのだ。香山にとって不運だったのは、冰らを襲った時に周をはじめ隼や僚一などプロ中のプロが近くにいたということである。こうしてかねてからの拉致事件と花見に水をさした傷害事件は、ようやく幕引きとなったのだった。



◇    ◇    ◇



 それから一週間が経ち、香港の両親たちも帰国していった周邸にはいつも通りの穏やかな日常が戻ってきていた。真田の怪我もほぼ快復し、これまで以上にはつらつとしてお邸の管理に精を出してくれている。彼にとっては冰が父親同然だと言ってくれたことが格別に嬉しかったようで、より一層主人たちに仕えることが生き甲斐となったようであった。
 そんな中、週末を迎えた周と冰は、いつものように鐘崎邸へと遊びに訪れていた。拉致と花見の時に様々世話になった礼方々の訪問でもある。
 たわいのない雑談に花を咲かせる中で冰がふと珍しいことを口にした。
「やっぱり俺も紫月さんたちみたいに強くなりたいなぁ……」
「いきなりどうした」
 周はもちろんのこと、紫月らも不思議そうに首を傾げる。
「うん、なんていうか……こないだみたいなことがあった場合にさ。ちょっとは応戦できる技っていうか、護身術みたいなの? 俺は腕っ節は弱いし喧嘩みたいな状況になってもどうしていいか分からなくて。男として情けないっていうのもあるけど、もしもっていう時に何もできないんじゃ困るなぁと思ってさ」
 香港にいた頃は黄老人に武術の稽古にも通わせられたことがあったが、まったくといっていいほど身に付かなかったのだと言ってしょげている。
「そりゃまあ、冰君はディーラーの方の修行で目一杯だったろうからさ! あっちもこっちもじゃさすがに大変だったんだろうさ」
 紫月がすかさずフォローを入れてくれたが、確かにできないよりはできた方がいい場合もあることは事実だ。冰にしてみれば花見の時はもちろんだが、里恵子と共に拉致に遭った際にも、万が一の戦闘などが起こった場合には対処のしようがなかったことが悔やまれるわけなのだ。そう考えると今からでも身に付けておくべきではと思ったらしい。
「まあそうだな……。冰も俺と一緒にいる以上、今後もいつまたどんな敵意に巻き込まれるか分からねえからな。この際、冰専用の護衛係をつけることを考えるか」
 周が真面目な顔で考え込んでいる。
「そんな……専用だなんて。そこまでしてもらうなんて申し訳なさ過ぎるよ」
 冰は恐縮しているが、周としては真剣だ。すると鐘崎がクスッと笑みながら提案を口にした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...