極道恋事情

一園木蓮

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白蘭の証

1(白蘭の証 完結)

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「よし! これで完璧」
 大きなスーツケースの蓋を閉じながら満足そうに微笑んでいる。そんな嫁の姿を横目に、周は自室のバーカウンターで二人分の飲み物をこしらえていた。
「支度は済んだのか?」
「うん! バッチリ!」
「お前も紹興酒でいいか?」
「あ、うん! ありがとう白龍」
 パタパタと駆け寄って来る仕草が何とも可愛らしい。明日からの香港行きを前にして、周と冰はリビングのソファへと肩を並べた。いよいよ冰の肩に周家の妻の証である蘭花の刺青を入れに香港の実家へと向かうのである。
「聞いていると思うが、今回は鄧も一緒だ」
「そうだってね。鄧先生も久し振りでご実家のご家族に会えるって楽しみにしていらしたよ」
 そうなのだ。医師の鄧の家柄は代々医者一家で、彼の両親と兄は香港の周ファミリー専属医師として活躍してくれているのである。
「鄧のお袋さんと兄貴は内科と外科の専門医だが、親父さんは彫り物の方も担当してくれていてな。それこそヤツの爺さんは名のある彫り師だったからな」
「白龍の刺青も鄧先生のお爺様に入れていただいたの?」
「いや、俺のは鄧の親父さんが入れてくれた。兄貴のもそうだ」
「そうなんだ!」
「腕は折り紙付きだから安心していいぞ」
 周兄弟の背中を担当したのならまさに安心である。
「俺の親父の彫り物は鄧の爺さんがやったそうだが、歳と共に老眼が進んじまったそうでな。兄貴と俺のは親父さんが入れてくれたわけだ」
 ちなみに兄・周風の嫁の美紅の刺青も鄧の父親が彫ったそうだ。
「うーん、鄧先生のお父様だから安心だけど、やっぱりちょっとドキドキするなぁ」
 まあ当然だろう。刺青を彫るなど冰にとってはまさに未知の世界の話である。今回、冰の入れる白蘭は大きさも小さい為、それほど大掛かりではないが、周や兄の風などは一年掛かりの長丁場だったそうだ。
「俺もずっと側に付いててやるから安心しろ。それに真田も付き添いたいと言っていたしな」
「うん、さっきお夕飯の時に真田さんからもそううかがったよ。皆さんにご足労掛けて申し訳ないけど、素直に頼りにしてるね!」
「ああ、任せろ。なんてったって真田は俺が産まれる時も分娩室の前で付きっきりだったくれえだからな」
 周がいつもの不敵な笑みを見せながら紹興酒を口に含む。
「うん! すごく心強いよ!」
 そういえばその分娩室での話を聞いたのは二度目だ。一度目は初めて周に抱かれた日のことだった。その頃のことを懐かしく思い出しながら、今こうして彼の伴侶となり、その証である刺青を彫ってもらうまでになった縁を幸せに思う。
「楽しみだなぁ」
 満面の笑みと共に、この幸せをしみじみと噛み締める冰であった。
 部屋の隅には大きなトランクが二つ。一つは自分たちの着替え、そしてもう一つは香港の家族と世話になる鄧一家への土産品が詰め込まれている。
 香港の実家へ帰る際にはいつもこうして土産にも気を遣ってくれる愛しい嫁だ。周もまたその華奢な肩を抱き寄せながら、至福の思いに胸を温かくするのだった。
「よし、冰。明日の出発は夕方だからな」
 今夜はまだゆっくり過ごせるぞと言いながら、コツリと額を合わせる。形のいい瞳が視界に入り切らない間近で色香を讃えているのに、冰はポッと頬を染めた。
「生まれたままのお前の抱き納めになるわけだからな」
 そっと額に口付けながら周が感慨深げに言う。
「そっか……! うん、確かに」
 この肩に白蘭の花が咲けば、周の伴侶としての新たな自分が誕生するわけだ。
 ヒョイと軽々――姫抱きをされて、冰は愛しい亭主の首に両腕を回し抱き付いた。
「白龍、大好き――!」
「ああ。俺もだ」
 熱のこもったローボイスと共にシーツの海へと落とされる。甘やかで激しい、長い夜が始まるのだった。

白蘭の証 - FIN -
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