極道恋事情

一園木蓮

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謀反

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「いえ、それなんですが――実際は絶縁されたわけじゃなく、野郎の方からファミリーを去ると申し出たって話ですぜ」
「――!? 自分から抜けただと? お前、陳のヤツとは親しかったのかよ」
「ええ、まあ。歳も近かったですし、割とよく話はしてましたよ。ヤツによれば闇カジノでファミリーの次男坊に直接叱責を食らって、その時のオーラにビビッちまったようでね。自分にはこの道は合わねえと実感したんだとか。釈放されてからすぐにファミリーに謝罪がてら組織を抜けることで赦して欲しいと言ったそうです」
 それによると、陳は故郷へ帰って今後は地道にやっていくことに決めたらしいとのことだった。
「――で、その陳が何だってんだ。まさか野郎を犯人に仕立て上げるとでも言うつもりか?」
「いえ、そうじゃねえです。ヤツはもう裏の世界に戻ってくる気はねえでしょうから、そっとしといてやるのがいいと思ってます。ただヤツが闇カジノで売り買いしようとしてた次男坊の連れ合いですが――どうもその売買自体を依頼した野郎ってのが、周家の次男坊に気があったらしいんですわ」
「気があっただと? 次男ってーと――名は確か周焔だったな」
「ええ。その時の依頼者ってのは周焔が日本の東京で経営している商社に勤めてた元社員だそうですが、恋にとち狂うあまり周焔の連れ合いを拉致って異国のマフィアに売り飛ばそうってな計画をしてたんだとか。陳の他にも台湾やマカオから来てた連中が名乗りを挙げてたようですが、結局カジノが検挙を食らったことで話はオジャンになり売買にも失敗――元社員の野郎は当の周焔からえらい仕打ちを食らったとか」
「は――当たりめえだわな。元社員だか何だか知らんが、素人がマフィアに喧嘩を売るなんざ頭がイカレてやがる」
 周一族に対してはいけすかない思いがあるものの、異国の、それも素人がマフィアを相手に己の我を通そうなどお門違いにもほどがあると、憤りを隠せない。羅にとって、マフィアとしてのプライドと周一族に対する不満とはまた別次元の話のようだ。
「まあ、奴さんとしては周焔が香港マフィアのファミリーだとは知らなかったようですがね。落とし前で殴る蹴るの暴行を食らったとかで、どうも相当恨みに思っているらしいって話でね。いつか絶対復讐してやるんだって息巻いてるらしいんです」
 陳とその元社員の男は闇カジノでの一件の際に留置を通して顔見知りになったらしく、互いに釈放されてから一緒に酒を飲んだことがあったらしい。そこで周焔についての執拗な愚痴を耳にしたそうだ。
「で、結局のところ周焔はてめえの嫁に手を出されたってのに、殴る蹴るだけでその元社員って野郎の始末すらしなかったってのか? 周焔ってのも案外だらしのねえヤツだな」
 異国のマフィア――それも頭領の身内に手を出して殺されなかっただけマシだと鼻で笑うところだが、羅にとってみればそんな周一族の甘い沙汰も気に入らない原因のひとつだったようだ。
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