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謀反
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汐留、周邸――。
「今夜は少し遅くなる。先に休んでいていいからな」
周がいつものように冰の頭をクシャクシャと撫でながら不敵な笑みを見せている。その脇では真田が冰と自分、二人分の夕飯を用意しながら「お気をつけて」と送り出す言葉を口にする。周が接待などで留守にする夜は、執事である真田も冰と共に食卓を囲むのがすっかり恒例となっているのだ。いつもとなんら変わりのない穏やかで幸せに満ちた夕暮れであった。
「明日からは三連休なんだしさ。ちゃんと寝ないで待ってるから心配しないで! 白龍も気をつけて行ってきてね」
スーツの上着を着せてやりながらニコニコと送り出してくれる嫁に周の瞳も自然と細くなってしまう。相変わらずに可愛いことを言ってくれる。こんな仕草を見れば頭を撫でるだけでは到底足りなくなりそうだ。周は長身の腰を前屈みにしながら、愛しい嫁の額に小さなキスを落とすと、迎えにやって来た李と共に上機嫌で出掛けていったのだった。
まさかこの数時間後にとんでもない企みが待っていようなどとは、夢夢思うはずもなかった。
◇ ◇ ◇
時刻は夜の十一時を回ったところだった。商談を兼ねた接待の会食としてはまずまず早めに切り上げられた時間帯といえる。
『寝ないで待ってるからね!』そう言って微笑んでくれた可愛い仕草を思い浮かべながら、周は後部座席のシートへと深く背をもたれた。
後はもう帰るだけである。瞳を閉じればウトウトと心地の良い眠気が降りてくる。
それから数分走った時だった。場所はちょうど高速道路下に差し掛かった所でそれは起こった。
駅前ならばともかく深夜の高架橋の下には人通りは殆どない。死角から突如大型のトラックが突っ込んできた事態に、さすがに運転手も回避できなかったのか、ガシャーンという爆音と共にフロントガラスにヒビが入り、運転手と助手席の李は衝撃で気を失ったようだ。後部座席の主人を守ろうとしてか、運転手はハンドルを切らずに自分が盾になるような形でトラックを受け止めた状態で停車した。
周もまた突然の衝撃を食らって、ほんの一瞬意識がブレたようである。肩を思い切りドアにぶつけたと同時に事故を実感した。
前を見れば運転手と李がガックリと首を垂れて気を失っているのが分かった。二人共に額からは流血が見てとれる。
「李……! 宋!」
即座に彼らの容態を確かめんと前のシートに手を掛けて身を乗り出した時だった。ヒビで視界が悪いフロントガラスの向こうから数人の男たちがこちらへと駆け寄って来るのに気がついて、周は咄嗟に状況を理解した。
「今夜は少し遅くなる。先に休んでいていいからな」
周がいつものように冰の頭をクシャクシャと撫でながら不敵な笑みを見せている。その脇では真田が冰と自分、二人分の夕飯を用意しながら「お気をつけて」と送り出す言葉を口にする。周が接待などで留守にする夜は、執事である真田も冰と共に食卓を囲むのがすっかり恒例となっているのだ。いつもとなんら変わりのない穏やかで幸せに満ちた夕暮れであった。
「明日からは三連休なんだしさ。ちゃんと寝ないで待ってるから心配しないで! 白龍も気をつけて行ってきてね」
スーツの上着を着せてやりながらニコニコと送り出してくれる嫁に周の瞳も自然と細くなってしまう。相変わらずに可愛いことを言ってくれる。こんな仕草を見れば頭を撫でるだけでは到底足りなくなりそうだ。周は長身の腰を前屈みにしながら、愛しい嫁の額に小さなキスを落とすと、迎えにやって来た李と共に上機嫌で出掛けていったのだった。
まさかこの数時間後にとんでもない企みが待っていようなどとは、夢夢思うはずもなかった。
◇ ◇ ◇
時刻は夜の十一時を回ったところだった。商談を兼ねた接待の会食としてはまずまず早めに切り上げられた時間帯といえる。
『寝ないで待ってるからね!』そう言って微笑んでくれた可愛い仕草を思い浮かべながら、周は後部座席のシートへと深く背をもたれた。
後はもう帰るだけである。瞳を閉じればウトウトと心地の良い眠気が降りてくる。
それから数分走った時だった。場所はちょうど高速道路下に差し掛かった所でそれは起こった。
駅前ならばともかく深夜の高架橋の下には人通りは殆どない。死角から突如大型のトラックが突っ込んできた事態に、さすがに運転手も回避できなかったのか、ガシャーンという爆音と共にフロントガラスにヒビが入り、運転手と助手席の李は衝撃で気を失ったようだ。後部座席の主人を守ろうとしてか、運転手はハンドルを切らずに自分が盾になるような形でトラックを受け止めた状態で停車した。
周もまた突然の衝撃を食らって、ほんの一瞬意識がブレたようである。肩を思い切りドアにぶつけたと同時に事故を実感した。
前を見れば運転手と李がガックリと首を垂れて気を失っているのが分かった。二人共に額からは流血が見てとれる。
「李……! 宋!」
即座に彼らの容態を確かめんと前のシートに手を掛けて身を乗り出した時だった。ヒビで視界が悪いフロントガラスの向こうから数人の男たちがこちらへと駆け寄って来るのに気がついて、周は咄嗟に状況を理解した。
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