極道恋事情

一園木蓮

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謀反

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 こうして周一族が関わる鉱山での原石略奪計画が密かに幕を上げた。
 犯行に加わるメンバーは、あろうことかまがりなりにも現役で周ファミリー直下に与する者たちだ。いわば組織に対する謀反である。しかも鉱山から掘り出した原石を奪うという相当に大掛かりな代物だ。普通に考えるならば年月も人員も莫大に掛かるだろう机上の空論といえる。
 だが、計画を率いる羅辰はファミリーの中でもまずまずの立場にあった為、少なからず賛同する者が集まってしまったのだった。類は類を呼ぶの如く、誰もが一攫千金を夢見るろくでなしばかりである。ともすれば羅を出し抜いて我こそが新しい組織の頂点を乗っ取ろうと狙っている者も少なくはなかった。
 そんな中、羅の舎弟である男は準備の為にまずは九州の博多へと向かった。周焔に恋焦がれ、それが叶わなかったことで犯罪に手を染めて人生を踏み外したという元社員の男に会う為である。
「名前は――っと。香山淳太――ね。いったいどんな野郎なんだか」
 手元のメモ書きを見ながら香山という男の住んでいるとされる住所へと向かう。
 着いてみればそこはかなりの築年数が経っていると思われる寂れた感じのアパートメントだった。
 表札は一応出ているものの、コピー用紙にマジックで殴り書きされたような文字が雨に滲んで擦れている。開けっ放しになった小窓から中を覗けば、台所には空いた酒の缶や弁当のトレーなどが雑多に散らばっていて、外の廊下にまでムッとした生ゴミの悪臭が漂ってくる始末だ。
「は――、人生踏み外したってのは本当のようだな。この調子じゃ生活の方もカツカツってところか」
 少々大きめの報奨金を積んでやれば容易に落ちるだろう。男はほくそ笑みながら所々塗装が剥がれ落ちた玄関の扉を叩いたのだった。

 一方、羅の方でも次男坊・周焔の拉致計画に向けて着々と構想を練り上げていた。実行犯は羅を含めた男四人だ。
「いいか、決行は周焔が接待の会食に出掛けた夜だ。その帰り際を狙う。ヤツの側には側近の李狼珠リー ランジュがいるはずだ。どちらも舐めては掛かれねえ相手だから油断はするな」
 李は香港にいた頃から頭脳も切れるし武術にも優れていると言われていた精鋭だ。幼少の頃から周焔の側近として辛酸を共にしてきた侮れない男である。この二人を相手にまともにやり合えば、いくら四対二でも恐らく勝ち目は薄い。
「だから今回はあいつらの車にトラックで体当たりするって方法でいくぞ。周焔は後部座席だろうから正面から突っ込む。その時点で運転手と助手席の李は潰せるだろう。トラックを衝突させたら即座に降りて周焔を奪取。別口で待機させておく車に乗せて迅速にその場を撤収する」
 万が一周が何のダメージも受けていなかった場合を鑑みて、反撃を食らう前に素早くスタンガンで撃墜するという綿密な作戦が伝えられた。
「いくら周焔がデキる野郎でもトラックに突っ込まれれば多少の隙は狙えるはずだ。ヤツの奪取さえクリアすれば後はDAを盛っちまえば楽にいける。くれぐれも抜かるな!」
 そんな魔の手が着々と近付いてきていることなど知る由もない周は、その日いつものように李を伴って接待の会食へと向かったのだった。



◇    ◇    ◇


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