702 / 1,212
謀反
39
しおりを挟む
「冰君は俺の経営しているという社で毎日業務に携わってくれているんだよな? 仕事は大変ではないか?」
「いえ、全然! 俺は元々大して役に立っているのかいないのかという感じでしたし、業務のことは李さんと劉さんがしっかり見てくださっているので。周さんがご復帰なされるまで俺も微力ですが少しでも李さんたちのお手伝いができるようにと思っています」
「そうか……。キミにも李さんや劉さんにも世話を掛けてすまないな」
「いいえー! 俺たちはこれまでいつも周さんに支えられて、散々お世話になってきたんです。今こそ恩返しする時です。それに社の仕事は楽しいですし!」
周は『そうか』と言って、わずかだが笑みを見せた。
「冰君はどうして俺の秘書になったんだ? 俺たちはどうやって出会ったのかが知りたくてな」
そんなことを訊いてくる周の言葉に驚きつつも、冰はにこやかに答えてみせた。
「俺は……その、すごい斜め滑りというか……周さんが温情を掛けてくださって、俺を秘書なんていうすごいポストにつけてくださったんですよ」
「斜め滑り?」
面白いことを言う、とばかりに周はまたしても少しの笑みを誘われてしまった。
「そうなんです。本来だったら俺なんかこちらの会社に入社することさえ難しかったと思います。周さんの会社は商社ですし、社員さんたちは皆さん精鋭揃いで、とても俺なんかが近付けるような雰囲気ではないですよ。でも周さんはそんな俺を雇ってくださって。今でもどんなに御礼を言っても足りないくらいです」
少し恥ずかしそうにしながらも、頭を掻いて笑う。やはりこの青年と話していると、ひどく心地が好いのが不思議だ。
「なあ、冰君……。キミは……俺が結婚していたという相手のことも知っているか?」
医師の鄧が教えてくれなかったくらいだから、それこそこの青年に訊くのも野暮だろうとは思うのだが、どうしても聞かずにはいられなかった。彼のような青年が自分の結婚相手をどのように思っていたのかが気に掛かって仕方なかったからだ。
「周さんの結婚相手……。ええ、もちろん。存じていますよ」
「そうか……。実は昼間鄧先生にも同じことを訊いたんだが、教えてくれなくてな」
周は『それはあなた自身で見つけるべきです』と言われたことを話して聞かせた。
「そうですか、鄧先生がそんなことを。でも……そうですね。それが一番いいのだと思います。例え周りの誰かが『この人があなたの奥さんですよ』と言ったところで、周さんがそう思えなければ意味がありませんし。それに……周さんの伴侶さんは周さんのことをいつでも何処にいても一番大切に想っています。それだけは信じてあげてください」
「……そうか。なあ冰君。冰君から見て俺の伴侶はどんなヤツだった? いいヤツだったか?」
「どんな……。うん、えっと……」
「いえ、全然! 俺は元々大して役に立っているのかいないのかという感じでしたし、業務のことは李さんと劉さんがしっかり見てくださっているので。周さんがご復帰なされるまで俺も微力ですが少しでも李さんたちのお手伝いができるようにと思っています」
「そうか……。キミにも李さんや劉さんにも世話を掛けてすまないな」
「いいえー! 俺たちはこれまでいつも周さんに支えられて、散々お世話になってきたんです。今こそ恩返しする時です。それに社の仕事は楽しいですし!」
周は『そうか』と言って、わずかだが笑みを見せた。
「冰君はどうして俺の秘書になったんだ? 俺たちはどうやって出会ったのかが知りたくてな」
そんなことを訊いてくる周の言葉に驚きつつも、冰はにこやかに答えてみせた。
「俺は……その、すごい斜め滑りというか……周さんが温情を掛けてくださって、俺を秘書なんていうすごいポストにつけてくださったんですよ」
「斜め滑り?」
面白いことを言う、とばかりに周はまたしても少しの笑みを誘われてしまった。
「そうなんです。本来だったら俺なんかこちらの会社に入社することさえ難しかったと思います。周さんの会社は商社ですし、社員さんたちは皆さん精鋭揃いで、とても俺なんかが近付けるような雰囲気ではないですよ。でも周さんはそんな俺を雇ってくださって。今でもどんなに御礼を言っても足りないくらいです」
少し恥ずかしそうにしながらも、頭を掻いて笑う。やはりこの青年と話していると、ひどく心地が好いのが不思議だ。
「なあ、冰君……。キミは……俺が結婚していたという相手のことも知っているか?」
医師の鄧が教えてくれなかったくらいだから、それこそこの青年に訊くのも野暮だろうとは思うのだが、どうしても聞かずにはいられなかった。彼のような青年が自分の結婚相手をどのように思っていたのかが気に掛かって仕方なかったからだ。
「周さんの結婚相手……。ええ、もちろん。存じていますよ」
「そうか……。実は昼間鄧先生にも同じことを訊いたんだが、教えてくれなくてな」
周は『それはあなた自身で見つけるべきです』と言われたことを話して聞かせた。
「そうですか、鄧先生がそんなことを。でも……そうですね。それが一番いいのだと思います。例え周りの誰かが『この人があなたの奥さんですよ』と言ったところで、周さんがそう思えなければ意味がありませんし。それに……周さんの伴侶さんは周さんのことをいつでも何処にいても一番大切に想っています。それだけは信じてあげてください」
「……そうか。なあ冰君。冰君から見て俺の伴侶はどんなヤツだった? いいヤツだったか?」
「どんな……。うん、えっと……」
21
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる