極道恋事情

一園木蓮

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謀反

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 さすがに自分のことを『いいヤツですよ』と言うのもためらわれて、すぐには上手い返事ができずに困ってしまう。だが何も覚えていない今の周に返すならば、当然『いい人ですよ』と言うべきなのだろう。冰は恥ずかしそうに面映ゆい表情を見せると、
「周さんの伴侶さんは周さんのことを誰よりも何よりも大切に思っています。きっと自分よりも周さんのことが大事で大事で仕方ないというくらいあなたを愛している人です。それだけは信じてください」
 と言って満面の笑みで答えた。
「そうか。そんなに想ってもらっていたのか……。では俺は幸せ者というわけだな。逆に……俺はどうだったんだろう。俺はそいつのことを大切にしてやれていたんだろうか」
「ええ、もちろん! とても……とても大切にしていらっしゃいましたよ。彼こそ本当に幸せ……」
 幸せ者ですと言い掛けて、
「世界一幸せな人だと思います!」
 慌ててそう言い直した。
「そうか。ありがとうな、冰君。キミにもそう言ってもらえて安心できた。何故だろうな、俺はキミと話していると……とても心地がいいんだ。記憶もいつかは戻るんじゃないかと前向きな気持ちになれる気がしてな」
「そんなふうにおっしゃっていただけて嬉しいです! 俺でよければなんでも聞かせてください」
「ああ。そうさせてもらうよ。ありがとうな、冰君」
「いいえ、こちらこそです!」
 そっと、扉越しに二人のそんな会話を聞きながら、真田もまた熱くなった目頭を押さえたのだった。



◇    ◇    ◇



 鉱山からここ汐留に帰って来てからというもの、冰は李らと共に社を切り盛りし、周は鄧の医務室で診療を受けた後は自室で過ごすというのが日常となっていった。元々DAという薬物は記憶を奪うだけで身体への悪影響はない代物だ。体調的にはどこも悪くはないが、自ら何かをしたいとかといった欲求が湧かずに、周囲から言われるまま従うようにできていて、本人は善悪の判断もつかぬまま出された指示通りに動くことへの違和感すら感じない。戦闘用のロボットとして生きた人間を都合よく動かす目的で開発されたというくらいだから、自我が働かないのも無理はないといったところだった。
 周はほぼ丸一日中を自室で過ごしていたが、それに対して不満を覚えることもなければ、外に出たいと思うことすらない様子で、食事だと言われれば素直にダイニングの席に着く。風呂は冰が着衣のまま手助けをして、身体はもちろん髪なども洗う。それをごく当たり前のことだと思い、健康な成人男性として情けないという感情すら覚えない。生きている意味も感じなければ、仕事もせずに毎日毎日自室で過ごすだけという単調な日々を繰り返す中で、周の心を少しずつ解していったのは常に穏やかな冰の存在であった。
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