極道恋事情

一園木蓮

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謀反

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「じゃあ、おやすみなさい周さん。ゆっくり休んでくださいね。何かあればご遠慮なく声を掛けてください」
「ああ、すまない。……と、その……冰君……」
「はい?」
 何でも言ってくださいというようなあたたかい表情を向けられて、周は胸が熱くなるのを不思議な感覚で受け止めていた。
「いや、その……なんでもないん……だが」
 わずかすまなさそうに視線を外す。
「昼間から寝たり起きたりしているものでな……。その、なんというか……」
「まだ眠くありませんか? じゃあもう少しここにいさせていただいてもよろしいですか?」
 にっこりと微笑みながら冰はベッド脇にスツールを運んできて腰掛けた。
「そうだ! なにか温かいものでも淹れましょう」
「え……? あ、ああ……すまない。だが……」
 手間を掛けさせるばかりで申し訳ないといったふうに視線を泳がせた周を安心させるように冰は悪戯そうに笑ってみせた。
「ふふ、本当のことを言っちゃうと俺が飲みたかったりするんですよ。周さんのお部屋のバーカウンターには美味しい材料がたくさん揃っていますから」
 パッと明るい笑顔を見せると、カウンターに行ってせっせと茶の用意をしてくれる。ニコニコと楽しそうに湯を沸かし、ときおり鼻歌のようなものを口ずさみながら二人分のカップを並べている。気を遣わなくていいようにとの配慮からか、自分が飲みたいのだと言ってくれる。それが単なる気遣いなのか、あるいは本当にそう思っているのか、どちらにせよ周にとっては心温まる対応に違いない。やさしくてあたたかくて、側にいるだけで心がウキウキと躍り、元気が出るような気持ちにさせられるこの青年と、願わくばずっとこんなふうに一緒に過ごしていたい。彼の仕草のひとつひとつを眺めながら、周は初恋を覚えた少年のような心持ちに胸が熱くなるのを感じていた。
「はい、周さん。ハチミツ入りのレモネードを作ってみましたよ。温まりますよ」
「あ、うん……すまない」
 ゆっくりと身体を起こし、マグカップを受け取る。ほんのりと甘い香りが安らぎを誘うようだ。
「熱いですから火傷をしないように気をつけて飲んでくださいね」
「ん? ああ、すまない」
 湯気の立つカップをそっと口元に運んでは、言われた通りに気をつけて含む。
「美味い」
「よかった。俺、大好きなんですよ、これ!」
「そうか……。本当に美味いな。俺も好物になりそうだ」
「ふふ、それはよかった! 周さんに気に入っていただけて俺も嬉しいです!」
 そう言って笑う表情も可愛らしいが、綺麗な色白の手でカップを持つさまが小さな子供を思わせる。両の手でしっかりと包み込みながら、ふぅふぅとする仕草に自然と笑みを誘われてしまった。
「冰君……ありがとうな。いつも世話を掛けてすまない」
「え? いいえー! 俺も周さんとこうしていられることが楽しいですから!」
 言葉通り本当に嬉しそうな満面の笑みが周の心にあたたかい温もりを灯してくれるようだった。
「周さん、テレビはご覧になりませんか?」
 冰は身軽に立ち上がってテレビをつけると、何やらDVDをセットしてリモコンを片手に戻ってきた。
「これ、世界中の大自然を映したドキュメンタリーなんですけどね。とっても雄大な景色で、観ながら寝るとよく眠れるんですよ。俺、大好きでね」
 それはいつも周と共に寝る前に流していたものだった。これを観ていると自然と心地の好い眠気に誘われるのだ。冰は周の腕枕でこの映像を観ながら眠りにつくのが好きだった。
「いい景色だな。なんだか落ち着く気がする……」
「でしょう? いつか行ってみたいですね」
 そう言いながらそっとやさしく手を取って、さするように撫でてくれる。やわらかなその手の温もりが心地好くて、周はいつしかウトウトと瞼を閉じ始めた。
 しばらくして軽いいびきを立てて眠りに落ちた様子に、冰はテレビを消して静かに布団を掛けた。温かな羽布団が気持ち良いのか、周の瞳がわずか弧を描いたように感じられる。
「おやすみ、白龍。大好きだよ」
 起こさないようにそっと髪を撫で、触れるだけの小さなキスを額に落とす。灯りを絞って、冰は自室へと帰っていった。



◇    ◇    ◇


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