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謀反
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「俺が……あんたと一緒に……か?」
「おうよ! 遼とこの冰君も一緒でさ。俺たち四人で力を合わせて、そりゃあもう電光石火っちゅーくらいに鮮やかな活躍ぶりだったんだぜぃ!」
「……そうか。俺が……あんたたちと……」
そんな様子を横目に冰も嬉しそうに笑顔を見せている。
「紫月さんはどんな時でもポジティブですから、例え苦境でも絶対に突破口を切り開いちゃうパワーの持ち主ですもんね! それになんと言っても初対面でも全然そんな気しないっていうか、こちらが緊張する間もなく自然と引き込んでくれちゃいますもん! 俺と初めて電話で話した時もすっごくフレンドリーで、なんかもうずーっと前から親しくしてたような気持ちにさせてくれたんですよ」
「だろー? それが俺の唯一の取り柄だからさ!」
「唯一だなんて! 紫月さんはいいところだらけですよ! 俺の尊敬する方です!」
「マジか? そんなん言ってもらうと照れるじゃねっかー」
「だって本当ですもん!」
「冰君は褒め上手なぁ! 俺とは違って亭主を伸ばすタイプだよな! 俺も見習わなくっちゃいけねえ」
チラリと鐘崎の方を見て舌を出す。何気なく言った言葉だが、『亭主を伸ばすタイプ』という短いひと言には、ある意味で紫月の賭けともいえる思いが込められていた。受け取りようによっては冰にも亭主がいるとも取れるし、単に紫月自身の亭主――つまりは鐘崎に当てて言っただけとも取れる。ここで周が何か思い出す小さなきっかけというか、『ん?』と不思議に思ってくれるだけでもいいと思ってのことだった。もちろんそんな彼の気持ちに気付いた鐘崎も、
「おう、そうだな。俺もたまには褒めてもらったら、もっといい亭主に成長すっぞ!」
すぐさま会話にノって悪戯そうに笑う。
「ん、分かった! んじゃ今度からなるべく褒めちゃるわ!」
「あははは! 嫌だなぁ、お二人揃ってそんな謙遜するんだから! 紫月さんはいつだってめちゃくちゃ鐘崎さんを想ってるって節々に感じるし、すっごく愛情感じますよー」
「だろー? 分かってねえのは遼だけなんだよ」
カハハハと豪快に紫月は笑う。冰と二人、向き合ってパン! と手を合わせてはしゃいでいるのが実に楽しそうだ。周もまた、そんな彼らの笑顔を見ているだけで、より一層和まされる気がしていた。
◇ ◇ ◇
そうしてラウンジに着くと、鐘崎はなるべく人目を気にしなくて済む奥の席に案内してもらえるよう黒服に願い出た。パーテーションもあるし、ここならばほぼ個室も同然だ。
黒服が持って来たサンプルにかじりつきながら紫月が早速に食指をウズウズとさせていた。
「遼、お前も食うだろ? 食い切れなかったら俺が引き受けちゃるから!」
甘い物を好んで食べない鐘崎には二口三口つまませてやればそれでいいのだ。鐘崎もよく分かっていて、お前の好きなのを選べと笑う。
「んじゃねー、俺は毎度鉄板のチョコレートケーキと、遼にはブルーベリーのムースケーキな!」
冰君は? と、訊く。
「俺はラズベリーのムースケーキです。俺もこれが鉄板ですから!」
ニコニコと微笑む仕草が可愛らしい。そんな冰をチラリと窺いながら、周もまたサンプルを眺めた。
「周さんは何にします?」
冰に訊かれて、なんとなく惹かれる一点を指差した。
「じゃあ、俺はそれを」
周が選んだのは生クリームの上に削られたホワイトチョコレートがふんだんに掛かっているシフォンケーキだった。
図らずもそれは冰が一番最初にここに連れて来てもらった時に頼んだものだった。あの時は周がラズベリーで冰がホワイトチョコレートのケーキだったから逆であるが、周は『俺たちの名前にぴったりだな』と言ってくれたのだ。
ラズベリーは焔の赤、ホワイトチョコレートは雪吹の白だ。例え記憶がなくても自然とそれを選んだ周に、冰はむろんのこと、鐘崎も紫月もほっこりと温かい気持ちにさせられたのだった。
「おうよ! 遼とこの冰君も一緒でさ。俺たち四人で力を合わせて、そりゃあもう電光石火っちゅーくらいに鮮やかな活躍ぶりだったんだぜぃ!」
「……そうか。俺が……あんたたちと……」
そんな様子を横目に冰も嬉しそうに笑顔を見せている。
「紫月さんはどんな時でもポジティブですから、例え苦境でも絶対に突破口を切り開いちゃうパワーの持ち主ですもんね! それになんと言っても初対面でも全然そんな気しないっていうか、こちらが緊張する間もなく自然と引き込んでくれちゃいますもん! 俺と初めて電話で話した時もすっごくフレンドリーで、なんかもうずーっと前から親しくしてたような気持ちにさせてくれたんですよ」
「だろー? それが俺の唯一の取り柄だからさ!」
「唯一だなんて! 紫月さんはいいところだらけですよ! 俺の尊敬する方です!」
「マジか? そんなん言ってもらうと照れるじゃねっかー」
「だって本当ですもん!」
「冰君は褒め上手なぁ! 俺とは違って亭主を伸ばすタイプだよな! 俺も見習わなくっちゃいけねえ」
チラリと鐘崎の方を見て舌を出す。何気なく言った言葉だが、『亭主を伸ばすタイプ』という短いひと言には、ある意味で紫月の賭けともいえる思いが込められていた。受け取りようによっては冰にも亭主がいるとも取れるし、単に紫月自身の亭主――つまりは鐘崎に当てて言っただけとも取れる。ここで周が何か思い出す小さなきっかけというか、『ん?』と不思議に思ってくれるだけでもいいと思ってのことだった。もちろんそんな彼の気持ちに気付いた鐘崎も、
「おう、そうだな。俺もたまには褒めてもらったら、もっといい亭主に成長すっぞ!」
すぐさま会話にノって悪戯そうに笑う。
「ん、分かった! んじゃ今度からなるべく褒めちゃるわ!」
「あははは! 嫌だなぁ、お二人揃ってそんな謙遜するんだから! 紫月さんはいつだってめちゃくちゃ鐘崎さんを想ってるって節々に感じるし、すっごく愛情感じますよー」
「だろー? 分かってねえのは遼だけなんだよ」
カハハハと豪快に紫月は笑う。冰と二人、向き合ってパン! と手を合わせてはしゃいでいるのが実に楽しそうだ。周もまた、そんな彼らの笑顔を見ているだけで、より一層和まされる気がしていた。
◇ ◇ ◇
そうしてラウンジに着くと、鐘崎はなるべく人目を気にしなくて済む奥の席に案内してもらえるよう黒服に願い出た。パーテーションもあるし、ここならばほぼ個室も同然だ。
黒服が持って来たサンプルにかじりつきながら紫月が早速に食指をウズウズとさせていた。
「遼、お前も食うだろ? 食い切れなかったら俺が引き受けちゃるから!」
甘い物を好んで食べない鐘崎には二口三口つまませてやればそれでいいのだ。鐘崎もよく分かっていて、お前の好きなのを選べと笑う。
「んじゃねー、俺は毎度鉄板のチョコレートケーキと、遼にはブルーベリーのムースケーキな!」
冰君は? と、訊く。
「俺はラズベリーのムースケーキです。俺もこれが鉄板ですから!」
ニコニコと微笑む仕草が可愛らしい。そんな冰をチラリと窺いながら、周もまたサンプルを眺めた。
「周さんは何にします?」
冰に訊かれて、なんとなく惹かれる一点を指差した。
「じゃあ、俺はそれを」
周が選んだのは生クリームの上に削られたホワイトチョコレートがふんだんに掛かっているシフォンケーキだった。
図らずもそれは冰が一番最初にここに連れて来てもらった時に頼んだものだった。あの時は周がラズベリーで冰がホワイトチョコレートのケーキだったから逆であるが、周は『俺たちの名前にぴったりだな』と言ってくれたのだ。
ラズベリーは焔の赤、ホワイトチョコレートは雪吹の白だ。例え記憶がなくても自然とそれを選んだ周に、冰はむろんのこと、鐘崎も紫月もほっこりと温かい気持ちにさせられたのだった。
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