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謀反
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ケーキが運ばれてくると、初めての日と全く同じゴージャスな飾りに心が浮き立つ。冰は隣に座る周を見つめながら、あの日に周が言ってくれたのと同じ台詞を口にしてみせた。
「周さん、半分食べたら交換しませんか? そうすればどっちの味も楽しめますよ?」
周は少し驚いたように瞳を見開いたものの、すぐに『そうだな』と言ってうなずいた。
「冰君はケーキが好きか?」
「ええ、ここのケーキは特に大好きです!」
「この店のはそんなに美味いのか?」
「味ももちろんですけど、ここは周さんに初めて連れて来てもらったお店なんですよ。だから余計美味しく感じられちゃって」
「俺が冰君を連れてきたのか? ここに……?」
「そうです。周さんの会社に雇っていただけることになったその日にね。それで周さんが言ったんですよ、半分食ったら交換だって。そうすればどっちの味も楽しめるぞってね」
「……そうだったのか。俺が……そんなことを」
「その時に頼んだケーキもこれと同じものだったんですよ。周さんのはラズベリーで、俺のは周さんが食べてるホワイトチョコの方でしたけど」
「……ほう?」
マジマジとケーキを見つめている周に、
「なるほど。ぴったりだな」
鐘崎が珈琲を含みながら口を挟んだ。
「ピッタリ?」
「お前らの名前にピッタリだと言ったんだ。雪吹と言やぁ白だし、焔は赤だ」
周は、『あ……!』と瞳を見開いた。
「そう言われてみれば……そうだな」
何故だか分からないがひどく懐かしいような気分にさせられる。ふと、脳裏に不敵な笑顔で皿を交換する男の姿がぼんやりと過った。
『ほら、食え。半分食ったら交換だ』
『ピッタリだな。俺らの名前にピッタリだと言ったんだ』
あれは誰だったのだろう。目の前では緊張の面持ちでケーキを口にする感じのいい青年の姿が浮かぶ。彼の仕草を見つめる男はとても機嫌が良さそうにしていて、楽しそうだ。そんな二人の姿を想像するだけで、不思議と心温まる気がしていた。
「そういう紫月さんもピッタリじゃないですか! ブルーベリーの紫は紫月さんのお名前の色ですもん!」
「お! ホントだ! つーか、遼はさぁ、甘いモンが苦手だろ? けど何故かブルーベリーのムースだけは食うんだよな」
「当たり前だ。ブルーベリームースは去年のクリスマスの時にお前が作ってくれたやつだからな。あれ以来ケーキといえばそれと決めている。それに……お前を食うのは俺だからな」
ぼんやりとしていた周の耳にそんな賑やかな会話が飛び込んできて、ハッと我に返らされる。
「あははは! 食うのはケーキだろー!」
「ブルーベリー、イコール紫。紫イコールお前。つまりそれを食うのは俺限定ってことだ」
「うっは! 出たよ。遼の専売特許俺様発言! ってことは、このブルーベリーケーキは全部お前が食わなきゃいけねえってことになるぜー?」
甘いものが苦手なくせに丸々一個食べ切れるのかー? と、紫月がニヤニヤと鐘崎の顔を覗き込む。
「いいぞ、全部食っちゃる! そん代わりお前が食う分が減ることになるが、それでもいいならだがな」
「ええー! そいつぁ困る!」
なんともくだらない争いに、冰は可笑そうにクスクスと笑っている。
「嫌だなぁ、もう! 鐘崎さんと紫月さんってば相変わらず熱々なんですからね!」
そんなやり取りにも何故か心和まされる周であった。
「周さん、半分食べたら交換しませんか? そうすればどっちの味も楽しめますよ?」
周は少し驚いたように瞳を見開いたものの、すぐに『そうだな』と言ってうなずいた。
「冰君はケーキが好きか?」
「ええ、ここのケーキは特に大好きです!」
「この店のはそんなに美味いのか?」
「味ももちろんですけど、ここは周さんに初めて連れて来てもらったお店なんですよ。だから余計美味しく感じられちゃって」
「俺が冰君を連れてきたのか? ここに……?」
「そうです。周さんの会社に雇っていただけることになったその日にね。それで周さんが言ったんですよ、半分食ったら交換だって。そうすればどっちの味も楽しめるぞってね」
「……そうだったのか。俺が……そんなことを」
「その時に頼んだケーキもこれと同じものだったんですよ。周さんのはラズベリーで、俺のは周さんが食べてるホワイトチョコの方でしたけど」
「……ほう?」
マジマジとケーキを見つめている周に、
「なるほど。ぴったりだな」
鐘崎が珈琲を含みながら口を挟んだ。
「ピッタリ?」
「お前らの名前にピッタリだと言ったんだ。雪吹と言やぁ白だし、焔は赤だ」
周は、『あ……!』と瞳を見開いた。
「そう言われてみれば……そうだな」
何故だか分からないがひどく懐かしいような気分にさせられる。ふと、脳裏に不敵な笑顔で皿を交換する男の姿がぼんやりと過った。
『ほら、食え。半分食ったら交換だ』
『ピッタリだな。俺らの名前にピッタリだと言ったんだ』
あれは誰だったのだろう。目の前では緊張の面持ちでケーキを口にする感じのいい青年の姿が浮かぶ。彼の仕草を見つめる男はとても機嫌が良さそうにしていて、楽しそうだ。そんな二人の姿を想像するだけで、不思議と心温まる気がしていた。
「そういう紫月さんもピッタリじゃないですか! ブルーベリーの紫は紫月さんのお名前の色ですもん!」
「お! ホントだ! つーか、遼はさぁ、甘いモンが苦手だろ? けど何故かブルーベリーのムースだけは食うんだよな」
「当たり前だ。ブルーベリームースは去年のクリスマスの時にお前が作ってくれたやつだからな。あれ以来ケーキといえばそれと決めている。それに……お前を食うのは俺だからな」
ぼんやりとしていた周の耳にそんな賑やかな会話が飛び込んできて、ハッと我に返らされる。
「あははは! 食うのはケーキだろー!」
「ブルーベリー、イコール紫。紫イコールお前。つまりそれを食うのは俺限定ってことだ」
「うっは! 出たよ。遼の専売特許俺様発言! ってことは、このブルーベリーケーキは全部お前が食わなきゃいけねえってことになるぜー?」
甘いものが苦手なくせに丸々一個食べ切れるのかー? と、紫月がニヤニヤと鐘崎の顔を覗き込む。
「いいぞ、全部食っちゃる! そん代わりお前が食う分が減ることになるが、それでもいいならだがな」
「ええー! そいつぁ困る!」
なんともくだらない争いに、冰は可笑そうにクスクスと笑っている。
「嫌だなぁ、もう! 鐘崎さんと紫月さんってば相変わらず熱々なんですからね!」
そんなやり取りにも何故か心和まされる周であった。
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