極道恋事情

一園木蓮

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謀反

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 そんなある日のことだった。周は仕事に復帰したものの、未だ記憶が戻っていないこともあって、これまで面識があったクライアントと直接会って話をすることは控えていた。彼らには社長は少々大きな怪我を負って療養中ということにしていて、対応は全て李と冰らで行っていたのだ。そしてこの日は懇意にしているクライアントとの間で、新たな大口の取り引きが決定したのだった。
 周は社長室に居たが、あの冰が普段どんなふうに自分たち近しい間柄である以外の人間と接するのかということに興味が湧き、隣の応接室でのやり取りをモニター越しに窺ってみることにした。
 彼は思った通り性質の良さが滲み出るような対応で、微笑ましい気にさせられる。自分の前でだけではなく、誰に対しても同じように接する彼に心がキュッと摘まれるようだ。
「では今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
 クライアントの社長が専務を伴って訪れていて、大層機嫌の良さそうに笑顔を見せている。応対する李と冰も興奮気味に礼を述べていた。
「ありがとうございます! お役に立てるよう精一杯やらせていただきます」
「いえいえ、こちらこそですよ。アイス・カンパニーさんにお引き受けいただけて、この上なく有り難い限りです。氷川社長にもどうかくれぐれもよろしくお伝えください」
「お心遣い恐縮に存じます。氷川にはしっかりと申し伝えます」
「ところでその氷川社長のご容態は如何ですかな? 大きなお怪我をなされたとうかがったが」
 周がトラックとの接触事故に遭ったことは打ち明けていたので、容態を気に掛けてくれているようだ。もっとも記憶を失くしたことまでは告げていないので、単に怪我の治療中ということにしているのだった。
「ええ、お陰様で順調に快復しております。社長様とのお取り引きのことを伝えたら氷川もきっと喜ぶと存じます。本当にありがとうございます!」
 冰がそう言ってガバリと頭を下げた時だった。勢いよくお辞儀をしたせいでか、ゴツッとテーブルに額をぶつけてしまったのだ。鈍く響いたその音を聞いただけでも痛そうな様子に、
「だ、大丈夫ですか雪吹君……!」
 思わず社長と専務が慌てて身を乗り出す。
「すみません、大丈夫です。あまりに嬉しくて……つい力が入ってしまいました」
 冰はおっちょこちょいなものですからと言って恥ずかしそうに詫びの言葉を口にする。
「いやいや、そういう一生懸命なところが雪吹君のいいところですからな」
 なあ、と言って社長は隣の専務を見やる。
「そうですよ。氷川社長様は敏腕であられるし、李さんは精鋭の右腕であられるが、雪吹さんのそういった誠実なお人柄にも私どもは惹かれておるのですよ」
 二人にベタ褒めされて、冰は面映い笑顔を見せた。
「ありがとうございます。そのようなもったいないお言葉、心から感謝申し上げます!」
「いやいや、こちらこそ。末永くよろしく頼みますよ」
 それではと言って、和やかな挨拶と共に帰って行く二人を見送った。
「冰さん、お疲れ様でした! このような大口の取り引きをいただけたのも冰さんのサポートのお陰です」
 李が丁寧に礼を述べる。
「焔老板もきっと喜んでくださるでしょう!」
 劉もまたそう言っては、三人で手を取り合って喜んだ。
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