極道恋事情

一園木蓮

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謀反

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「白龍ー、お風呂先行っててー。着替えを用意したら俺もすぐ行くー」
 冰がのんびりとした口調ながら、相変わらずに甲斐甲斐しく世話を焼いている。今夜からはまた二人一緒に周の部屋での生活に戻ったわけだ。風呂も一緒、寝るのも一緒――当たり前の日常がこれほど嬉しく思えたことはない。つい先日までは戸籍を確かめるべきかなどと悩んでいたのが遠い昔のことのようだ。湯を浴びながら、周は戻ってきた幸せをしみじみと感じるのだった。
 身体を洗っていると冰が支度を終えて入ってきた。
「ちょうど良かった。背中流すねー」
 手にしていたウォッシャブルタオルをヒョイと取り上げて、せっせと背中を洗ってくれる。かれこれもうひと月以上、冰は同じように風呂での世話もしてくれていたわけだが、今宵は格別の思いでこの瞬間を味わう。これまでは着衣のまま手伝ってくれていた冰が、今は当たり前のように生まれたままの姿で背中を流してくれる。無事に記憶が戻った今、ここしばらくの間のことが夢まぼろしのようだ。
「よし、次はお前の番だ」
 周は交代して冰を座らせると、色白の背中を慈しむように丁寧になぞった。そうして二人一緒に大きな湯船に浸かると、周は背後から抱き包むように華奢な身体を腕の中へと抱え込んだ。
 肩先にはつい最近いれたばかりの白蘭の刺青。そこに唇を押し当てる。
「ここ、痛くねえか?」
 色香を含んだローボイスがバスルームに反射する。
「うん、もうすっかり。綺麗に入れてもらって、その後も痛みとか殆どなくてさ。さすがは鄧先生のお父様だよね!」
 そうなのだ。刺青を彫ってもらう為に二人して香港を訪れたこともつい昨日のことのようだ。
「すまなかったな、冰。長い間心配を掛けちまった――」
「ううん、そんなの……! 大変だったのは白龍の方なんだからさ」
「俺が今こうしていられるのはお前のお陰だ。あの鉱山で……お前が見つけてくれなかったら、俺は今頃あの世だったろう」
「……そんなことさせないよ。でも間に合って良かった。坑道の中で白龍を見つけた時のことを思い出したらさ、今でもドキドキしちゃうもん」
「ああ。さっき兄貴から聞いたが、俺は殆ど水に埋もれていて、服も水浸しだったとな。そんな俺をお前はこの華奢な身体で背負って助け出してくれたと。体格もデカくて重い、その上……服は水を含んでめちゃくちゃ重かったろうに……」
 それだけでも大変なのに、鉱山という厳しい環境下で、細い身体ながら懸命におぶって救い出してくれたのだ。
「お前は命の恩人だ」
「白龍ってば、そんな恩人だなんて大袈裟な……」
「それだけじゃねえ……。ここへ帰ってきてからもお前はずっと……ただひたすらに俺の面倒を見てくれた。俺は記憶のないのを理由に……仕事もせず、身の回りのことすら満足にできないでいた。こんな俺を見捨てずに、お前は一生懸命世話をしてくれた。普通だったらもうこんな役に立たねえ旦那なんざ愛想を尽かされて当然の状況だったにもかかわらず、お前はいつでもあたたかい気持ちをかけてくれた。本当に……嬉しかった……! どう礼を言っても足りねえ」
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