極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
736 / 1,212
幸せのクリスマス・ベル

しおりを挟む
「見てください、紫月さん! ケーキ、どれも美味しそうでしょう」
「ホントだ! すっげ種類もいっぱいあって迷っちまう」
 嫁二人が仲睦まじくメニューを覗き込む傍らで、周と鐘崎の二人は早速に煙草を取り出して、まずは何を置いても一服が先のようだ。テーブルの上にマッチの束を見つけた鐘崎が、珍しくもワクワクとした表情で早速手に取っている。
「こいつぁ有り難え」
 鐘崎はライターよりもマッチ派だから、家では必ずマッチを使う。だが出先ではそうもいかない為、ライターで代用していることが多いのだ。喫煙自体のできる店が大幅に減った現在に、マッチまで設えてあるのだから鐘崎にとってはそれだけで奇跡の思いだった。
 置いてあったマッチは折りたたみ式の物で、昭和の頃にはどこの喫茶店でもよく見掛けたタイプだ。大概はマッチを一本切り離してから擦るのだが、鐘崎はそうせずに繋がったままの一本を折り曲げると蓋の部分で押さえつけては器用に擦って火を点けた。先に隣の周に火を分けてから自分の煙草にも灯すと、これまた粋な仕草でパチンと指で蓋を弾いて火を消した。
 二人共にまるで『美味い!』といった声が聞こえてきそうな表情で一服目を吸い込み、火を分けてもらったお返しにというわけか、今度は周が立ち上った紫煙を煙たそうに瞳を細めては、咥え煙草で灰皿を引き寄せて鐘崎の前へと差し出す。何気ないほんの一瞬の出来事なのだが、そんな仕草をメニュー越しに見つめていた冰はみるみると頬を赤らめた。ポカンと口を開いたまま、うっとりと視線は釘付けだ。
「ん? どうした冰?」
 じっと見つめられているのに気がついた周が首を傾げると、ハッと我に返ってますます頬を染めた。
「う、うん……何でもない……んだけど、なんていうか……男の人が煙草を扱う仕草ってカッコいいなって思ってさ」
 大真面目でそんなことを言った冰に、メニューにかじりついていた紫月も『え?』といったように目を丸めてしまった。
「い、今の白龍と鐘崎さんの……煙草を扱ってるちょっとした仕草っていうの? それがすごくカッコいいって思ったの……。なんだかドキドキしちゃった」
 周も鐘崎も特に格好良く見せようなどとはまったく意識してやっていない普段の仕草なのだろうが、冰にとってはそこがまた粋に映ってしまったようだ。
 周にしてみれば、モジモジと頬を赤らめるそんな仕草の方がよほど可愛く思えてか、
「冰、頼むモンを決めたらこっちへ来い」
 離れて座っていた位置を交換しろと呼び寄せる。すかさず源次郎と花村が立ち上がっては、ひとつずつ席をずらした。
「す、すみません皆さん……! お手間をお掛けしちゃって」
「いえいえ」
 源次郎も花村も微笑ましげにクスクスと笑っている。周もまた、快く席を譲ってくれた彼らに礼を述べた。
「源さん、花村さん、すみません。こいつがあんまりにも可愛いことを言うもんで我慢できなくなってしまいました」
 気恥ずかしそうにペコリと会釈をする。普段から嫌というほど一緒にいるというのに、どこででもくっ付いていたい二人を心温まる思いで見つめたシニア組であった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...