極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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「身代わりの任務だ?」
 珍しくもポカンと口を開け、唖然とした表情で鐘崎が片眉をひそめていた。それというのもただの身代わりではなく、とある夫婦に代わって数日の間を過ごして欲しいという内容だったからだ。
 鐘崎組の長である父の僚一が詳細を付け加える。
「実はな、今度この東京で世界的権威のある医師会の会合が催されることになった」
「ああ、そういや源さんがそんな話をしていたな。何でもその会合で新たに発見された治療のメカニズムが発表されるとか言っていたが」
 もちろんニュース番組などでも流れていたので、鐘崎自身もその会合自体が催されるのは耳にしていた。
「その新たなメカニズムというのを発見したのが若手の医師でな。医学会では天才と謳われている人物だ。名はクラウス・啓・ブライトナー、歳は三十二だ。父親がドイツ人、母親は日本人の混血で、一昨年結婚した妻は日本人。クラウスとは八つ違いの二十四歳だ。二人共普段はドイツ住まいだが、会合に出席する為、来週始めから一週間ほど来日する」
「つまり――そのクラウスが無事に会合で新たな発見を発表するまでの間の護衛というわけか?」
「まあな。護衛については俺と源さんの方で担う。医学会でも非常に重要な機会だ。クラウスの発見を会合の前に入手しようとする敵対者が彼を狙っているという情報が入った」
 その為、ブライトナー夫妻の来日と同時に身代わり役として彼らと入れ替わり、本物の夫妻には他人の目に触れない極秘の場所で過ごしてもらうこととなった。僚一と源次郎らが警護に当たるという。
「ただし、会合前に夫妻が一切周囲に姿を見せないというのは怪しまれる。そこで身代わり役が夫妻を装って、食事や買い物などに出掛けるシチュエーションを作り出さねばならんということになってな。年齢的にも体格的にもぴったりと当てはまるのがお前だったというわけだ」
 僚一が差し出した数枚の写真を見て、鐘崎は少々驚き顔で父を見やった。
「これ――」
「驚いたろう。俺も依頼が来た時にそれを見てなるほどと納得させられた。クラウスはお前によく似ている」
 明らかに違うのは髪と瞳の色だけで、顔立ちは確かによく似ている。鐘崎本人が見てもそう思うのだから、他人が見れば間違えてもおかしくないといったところだ。
「身長体格も遜色ない。髪色だけ染めて眼鏡をかければ完璧にクラウスだ」
「……事情は分かった。だが俺はいいとして、嫁役はどうする。写真を見る限りさすがに紫月では怪しまれるだろう……」
 それというのもクラウスの夫人は体格からして小柄だったからだ。紫月は細身だし、以前にも女装で事件を乗り切ったことがある。変装すること自体は可能といえるが、さすがに体格を変えるのは無理があろう。
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