極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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「それについては依頼元が女性のエージェントを用意するそうだ。コードネームは六条女雛ろくじょうのめびな、クラウスの妻と同い年の女だ」
「六条……何だって?」
「女雛だ。正式なコードネームは六条女雛ろくじょうのめびな、普段はメビィと呼んでくれとさ」
「……随分とまた変わった名だな」
「なんでも六条御息所ろくじょうのみやすどころにあやかって本人が希望したコードネームだそうだぞ」
 意味ありげに僚一は笑う。
「六条御息所だ?」
 六条御息所と聞いてすぐに頭に浮かぶのは、かの有名な源氏物語に出てくる貴婦人だ。非常に高い身分にあり、美貌にも才気にも秀でていたものの、嫉妬に駆られ生霊となって恋人の妻を死に追いやったという少々驚愕なエピソードが有名である。
 それにちなんだ名と聞かされれば、何とも言い難い気持ちにさせられるというか、正直なところ驚かされる。しかも女雛といえば一般的に思い付くのは雛人形だ。お内裏だいり様――つまりは男雛の隣にいる”お雛様”である。どちらも身分は最高位という女性たちだ。
 それらになぞらえるということは、よほど腕に自信があるか、あるいは出世欲が強いのだろうかと、ついそんなふうにも思ってしまう。若い女が自らのコードネームに選ぶにしては、いささか首を傾げさせられそうな名でもある。
「本当に本人が希望した名なのか?」
「そう聞いているぞ。なんでも当初は”白雪姫”という名を希望していたそうだが、同じチームに”眠り姫”というコードネームの女がいたそうでな。それならと今の名に決めたんだそうだ」
「白雪姫がダメなら源氏物語にお雛様――か」
 自他共に認める切れ者なのか、あるいは文学好きの夢見る乙女か。
 だがまあ、他人のコードネームにどんな意味があろうと、仕事の上では関係ないことだし、わざわざ首を突っ込んで知りたがるほどの興味もない。鐘崎にとっては与えられた任務を滞りなくこなしさえできればそれでいいのだ。
 僚一が差し出した資料に女の顔写真と簡単な経歴が載っていた。それらにザッと目を通す。
 年若いのでエージェントとしての実績は浅いが、これまでに彼女が関わった案件を見れば、割合難しいものが多いようだ。しかも見事解決に導いている。
「なるほど。身長や年齢などはぴったりか」
 体格は似ているが、顔立ちはクラウスの夫人とは少々違う。似てはいないが、どちらも単体で見たならば、ほぼ万人が美人だと思うだろう見目良い容姿であった。
「本人とはあまり似ていないな。これで周囲をごまかせるのか?」
「その点は化粧で何とでもなるそうだ。メビィは変装も得意としていて、これまでにも何度か別人に化けて任務を成功させているらしい。聞くところによるとやり手の女だそうだ」
「……やり手ね」
 ということは、夢見る乙女というよりは切れ者という方に近いのだろうか。小さな溜め息と共に資料をめくる。温度の低い息子の声音に僚一は苦笑してしまった。
「そうあからさまに嫌そうな顔をするな。お前が女と組むのを懸念するのは分からんでもないが、これも仕事だ」
「分かっている。それで、俺はその女と組んで何をすりゃいいんだ」
「うむ、説明しよう」
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