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身代わりの罠
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「では帝斗らにも今度のことはある程度話してあるということだな?」
「そうだ。粟津の会長、つまりは帝斗君の親父殿だが、快く協力への返事をいただいた。ホテル内で何か必要なことがあれば、帝斗君が全面的に面倒を見てくれるそうだ」
「そいつは有り難い」
帝斗とは気心も知れているし、断トツで頭の切れる男だ。頼りになる。
「我々が任務に当たる間、組のことは紫月と幹部の清水に任せることにする。まあお前さんも通いで済むわけだから、夜にはここへ帰って来られる。俺と源さんはブライトナー夫妻に付きっきりとなるから、留守の間のことは頼んだぞ」
「了解した。それで、女との顔合わせはいつだ」
「明日午後一、グラン・エーで焔のところの鄧先生も含めて待ち合わせている。むろん粟津親子も一緒だ」
「承知した。では俺の方も紫月と相談して変装用の準備を整えておく」
こうしてクラウス・ブライトナー夫妻の身代わり兼警護ミッションが幕を開けることとなった。
鐘崎はクラウスになり切る為、まずは髪色を染めるところからスタートだ。急なことなので、美容院に行く暇もなく、自宅で紫月が手伝い亜麻色へと染め上げる。
「瞳の色はカラコンでいいな。この写真の色だと薄いグリーンってところか」
紫月が数あるカラーコンタクトレンズの中から近い色を選んでくれる。
「それから……っと。ああ、そうそう。遼、髭剃るのも忘れんなぁ!」
クラウスの写真を見ながら紫月が細かいところまで確認して指示を出す。何せ今日の明日という急な話だ。こうしてチェックしてくれると大助かりなのだ。
「あとはホテルへの出入り用に何種類か変装用具が必要だな。グラン・エーを使う客層なら上品なエリート感にすりゃ怪しまれずに済む」
若者の姿ばかりでなく、初老に化けることも必要だ。白髪のウィッグや眼鏡に帽子、ステッキなどの小道具に至るまで様々なパターンを用意していく。変装用の服の他にもクラウスになり切る為の服装も用意せねばならない。
「結構な大荷物になるな。帝斗に言って業者用の搬入口から運び入れてもらうべ」
紫月は各変装毎に使う服や小物、靴に至るまでを一揃いずつ分かりやすいようにセットして衣装ケースに詰め込んだ。
鐘崎の組では依頼内容によってはこうした変装なども必須の為、準備は手慣れたものである。それもこれも手際良く身支度を手伝ってくれる姐さんがいればこそだ。
「すまねえな、紫月。世話を掛ける」
「何言って! これも俺ン仕事だからさ」
「それもだが、今回は女のエージェントと夫婦役を演じにゃならん。お前にも申し訳ねえと思うが……」
「バッカ。仕事なんだからそんな気ィ遣う必要ねって! それよかエージェントの姉ちゃんに対してあんまし無愛想にすんなよー? 俺的にはそっちの方が心配!」
朗らかに紫月は笑う。こんなふうに送り出してくれることが、鐘崎にとっては何よりの癒しになるのだ。
「俺、そんなに愛想ねえか?」
「お前は俺と違ってただでさえ硬派な雰囲気だからなぁ。若頭としちゃ大事なことだし、まあそこが魅力でもあるわけだけどさ。特に女に対してはぶっきらぼうなトコがあるから」
紫月はからかいながら笑う。
「そうか……。それじゃ少し笑顔の練習でもしていくか」
「あははは! そいつはいいな。頑張れ、遼!」
鐘崎がすまなさそうにしているのを笑顔で受け止めながら、紫月はそんな亭主の肩をキュッキュッと揉んでは激励してくれるのだった。
◇ ◇ ◇
「そうだ。粟津の会長、つまりは帝斗君の親父殿だが、快く協力への返事をいただいた。ホテル内で何か必要なことがあれば、帝斗君が全面的に面倒を見てくれるそうだ」
「そいつは有り難い」
帝斗とは気心も知れているし、断トツで頭の切れる男だ。頼りになる。
「我々が任務に当たる間、組のことは紫月と幹部の清水に任せることにする。まあお前さんも通いで済むわけだから、夜にはここへ帰って来られる。俺と源さんはブライトナー夫妻に付きっきりとなるから、留守の間のことは頼んだぞ」
「了解した。それで、女との顔合わせはいつだ」
「明日午後一、グラン・エーで焔のところの鄧先生も含めて待ち合わせている。むろん粟津親子も一緒だ」
「承知した。では俺の方も紫月と相談して変装用の準備を整えておく」
こうしてクラウス・ブライトナー夫妻の身代わり兼警護ミッションが幕を開けることとなった。
鐘崎はクラウスになり切る為、まずは髪色を染めるところからスタートだ。急なことなので、美容院に行く暇もなく、自宅で紫月が手伝い亜麻色へと染め上げる。
「瞳の色はカラコンでいいな。この写真の色だと薄いグリーンってところか」
紫月が数あるカラーコンタクトレンズの中から近い色を選んでくれる。
「それから……っと。ああ、そうそう。遼、髭剃るのも忘れんなぁ!」
クラウスの写真を見ながら紫月が細かいところまで確認して指示を出す。何せ今日の明日という急な話だ。こうしてチェックしてくれると大助かりなのだ。
「あとはホテルへの出入り用に何種類か変装用具が必要だな。グラン・エーを使う客層なら上品なエリート感にすりゃ怪しまれずに済む」
若者の姿ばかりでなく、初老に化けることも必要だ。白髪のウィッグや眼鏡に帽子、ステッキなどの小道具に至るまで様々なパターンを用意していく。変装用の服の他にもクラウスになり切る為の服装も用意せねばならない。
「結構な大荷物になるな。帝斗に言って業者用の搬入口から運び入れてもらうべ」
紫月は各変装毎に使う服や小物、靴に至るまでを一揃いずつ分かりやすいようにセットして衣装ケースに詰め込んだ。
鐘崎の組では依頼内容によってはこうした変装なども必須の為、準備は手慣れたものである。それもこれも手際良く身支度を手伝ってくれる姐さんがいればこそだ。
「すまねえな、紫月。世話を掛ける」
「何言って! これも俺ン仕事だからさ」
「それもだが、今回は女のエージェントと夫婦役を演じにゃならん。お前にも申し訳ねえと思うが……」
「バッカ。仕事なんだからそんな気ィ遣う必要ねって! それよかエージェントの姉ちゃんに対してあんまし無愛想にすんなよー? 俺的にはそっちの方が心配!」
朗らかに紫月は笑う。こんなふうに送り出してくれることが、鐘崎にとっては何よりの癒しになるのだ。
「俺、そんなに愛想ねえか?」
「お前は俺と違ってただでさえ硬派な雰囲気だからなぁ。若頭としちゃ大事なことだし、まあそこが魅力でもあるわけだけどさ。特に女に対してはぶっきらぼうなトコがあるから」
紫月はからかいながら笑う。
「そうか……。それじゃ少し笑顔の練習でもしていくか」
「あははは! そいつはいいな。頑張れ、遼!」
鐘崎がすまなさそうにしているのを笑顔で受け止めながら、紫月はそんな亭主の肩をキュッキュッと揉んでは激励してくれるのだった。
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