極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 次の日、丸の内にあるグラン・エーへと向かった鐘崎親子は、そこでエージェントの女と初顔合わせとなった。医師の鄧と共に初日だけは周も一緒だ。到着と同時に地下駐車場で粟津帝斗が迎えてくれた。
「いらっしゃい。久しぶりだね、遼二! 元気そうで何よりだ」
「お前さんもな。今回はまた世話を掛ける」
「事情はお父上からうかがっているよ。エージェントのメビィさんが特別室でお待ちだ。今は僕の父が対応している」
 地下の駐車場から特別室へ抜ける道順の説明を受けながら待ち合わせ場所へと向かう。
「この通路は一般のお客様には開放していないからね。一旦警備室を経てから駐車場へ合流できるようになってる。監視の追尾はそこでかわせるから」
 帝斗の説明に続いて僚一がつけ足す。
「移動用の車を車種違いで五台ほど常駐させておく。行き帰りの変装に合わせて、都度見合う車を使ってくれ」
「了解した」
「変装用の荷物は朝一で紫月から預かったよ。既に特別室のコネクティングルームへ届けてあるから」
 鐘崎親子が出向く前に紫月と若い衆が搬入業者に化けて運び入れてくれたそうだ。これで事前の準備は完璧である。
 そうして特別室に着くと、帝斗の父親とエージェントの女が待っていた。
「初めまして、メビィです。あなたが遼二さん? ホント、クラウスさんにそっくりね」
 女はまだ変装はしておらず素のままだったが、なかなかに見目良い美人だ。やり手というだけあってか物怖じしたところはなく、どちらかといえば自信にあふれているといった堂々たる雰囲気だった。
「これが変装後のイメージですわ。クラウスの奥様の遥さんでしたわね。彼女に似せてメイクしてみましたの」
 女が差し出した写真は大層良く化けられていると言える。
「これならば周囲に怪しまれることもなかろう。大したものだな、メビィ」
 僚一に褒められてメビィは得意気な笑顔を見せた。
「今から私たちは夫婦ね。よろしく遼二さん」
 にこやかに微笑まれて、鐘崎も『よろしく頼む』と会釈で返した。
 その後、皆で今一度ブライトナー夫妻の行程を確認し、来日から出国までの一週間の細かい動きを日毎に分けてスケジューリングしていった。
「僚一、その間、鄧には今回の任務に専念してもらえる。汐留の方には鄧の他にも常駐の医師がいるので、こちらのことは気にせんでくれていい」
 周がそう言ってくれるので、僚一らも心強い。
「俺は今のところ直接の出番はねえが、今後一週間は常に身体を開けておけるよう調整済みだ。何かあればいつでも遠慮なく言ってくれ」
「すまんな、焔。頼りにしているぞ」
 立地的にも鐘崎組よりは周の社の方が近いし、すぐに助力できる体制は整えておくと言ってくれる。心強いことだ。
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