極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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「それ以来、男が信じられなくなっちゃった。男なんて皆んな同じ……。ちょっと女が色気を見せればすぐに靡いて浮気も平気。だったらアタシはもう本気の恋なんてしない、逆に男を手玉に取って転がしてやれるような女になってやるって思って」
 以来、がむしゃらに任務だけに没頭してきたのだという。今回の鐘崎を嵌めるという企てにも自ら名乗りを上げたのだそうだ。
「新任の研修期間が終わって、いよいよ本格的なエージェントとしてコードネームをもらえることになった時、アタシは白雪姫っていう名前を希望したの。だって白雪姫は世界で一番美しい女性の代名詞でしょう? だからアタシもそれにあやかって二度と男に裏切られるような女にはならないって意味を込めて考えた名前だったけど……」
 チームには既に眠り姫という先輩エージェントがいたことから、メビィの希望は却下されてしまったのだそうだ。
「ここでもまたアタシの思いは叶わなかった。付き合っていた彼には裏切られて、願いを込めたネームも却下。正直恨みたくもなったわ。こんなアタシを理解してくれるのは同じような境遇に遭った女性しかいないって思ってね」
 それで六条御息所が思い浮かんだのだそうだ。
「ついでに名前の方にも強い意志を込めたものにしたくて女雛にしたの。お雛様は美しい女性の代名詞だし、お内裏様として夫と幸せになる女性ですもの。もう二度と男には騙されない。裏の世界で名を上げて誰からも見くびられない女になってやるって思ったの」
 なるほど。一風変わったコードネームにはそういった由来があったというわけか。
 世の中には自分の理想や希望が通らないことなど五万とある。というよりも通らない事の方が多かろう。だが、年若い彼女にとっては、やはりきつい出来事だったのだろう。
「そっか……。辛かったな」
 紫月は抱き付かれた腕とは反対側の手で彼女の頭をポンと撫でた。
「世の中にゃそんな野郎ばっかじゃねえよ。まあそういうのが多いってのも事実だけどな。過去のことを悔いてそれをバネにするのはいいとしても、ガムシャラに突っ走るだけじゃ息が切れちまうさ。眉間に皺ばっかり寄せてちゃ、せっかくの美人が台無しだしな」
 たまには肩を張らずに息抜きも必要じゃねえの? と紫月はそう言って微笑んだ。
「素のままのアンタはきっと優しいイイ女なんだ。明るく笑ってる方が可愛いぜ! そうすりゃアンタにもいつか必ず上っ面だけじゃなく本気で互いを預けられるようなヤツと巡り会う日が来る」
 な! と言って細められた瞳は穏やかでやさしく、あたたかさに満ち溢れていた。

「……本気で互いを預けられる……相手」

 そうか。そうなのだ。
 一時の甘苦しい誘い文句やムードなどではなく、全身全霊をかけても大切だと思える相手。己の幸せよりも相手の幸せを願えるような唯一無二の存在――。
 互いを預けるという言葉に重く深い覚悟のようなものを見て、メビィは憑き物が落ちたかのように目の前が光明で溢れていくのを感じていた。
「ん、うん……! そうね。アタシにもあなたと遼二さんみたいに信じ合える相手が……できるといいなぁ」
「大丈夫。アンタなら必ず巡り会えるさ。そん時は俺や遼二にも紹介してくれよ?」
「うん……うん! もちろん……!」
 スピードを上げて滑走路から飛び立つ翼を二人肩を並べて見送った。
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