極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 そんな紫月とメビィの後ろ姿を見守る鐘崎の視線もまた、穏やかに――ゆるやかに――流れる午後のひと時の中で幸せそうに細められたのだった。
「よう、カネ」
「おやおや、今度はお前さんの方がハラハラさせられているのかい、遼二?」
 女にしがみ付かれている紫月を見つめる鐘崎の背後から周と粟津帝斗がひょっこりと顔を見せて、冷やかすように笑う。
「いや、そうじゃねえが……。敵わんなと思ってな」
「一之宮か?」
「ああ。あいつはデカくてあったけえ心で誰をもああして幸せにしちまう。帝斗もよく知ってると思うが、三崎財閥の令嬢の件でもそうだった」
「ああ、繭嬢のことだね。そういえばそうだったね。あの時も紫月が真正面から彼女に向き合って、無事に一件落着したんだったね」
「ああ。それだけじゃねえ。里恵子の事件の時もそうだった。俺のことも常に広い懐で受け止めてくれる。俺はいつまで経ってもあいつの域には到達できる気がしねえ」
 もしも今回とは逆に紫月が女とどうこうなったり、もしくはその相手が男だったなら尚更牙を剥いてしまうだろうと思うのだ。
「あいつに粉掛けられたりしたら……俺にはその相手を真心で受け止めるなんて芸当は逆立ちしたって出来やしねえだろう。ただ焦れて、妬いて、相手をぶっ潰すしか脳がねえならず者だ。そんな俺と……あいつはこれからもずっと側にいてくれるだろうかと不安になる。紫月の尊さには一生掛かっても追いつくことはできねえだろうとな」
 情けないといったふうに伏目がちにする友に、
「お前だけじゃねえさ。俺も一緒だ。冰や一之宮のようにデカくてあったけえ人間には到底なれねえだろうぜ」
 周もまた似たような思いを重ねるのだった。
「だが、俺もお前もあいつらのことがこの世の誰よりも何よりも大事だってことだけは自信を持って言える」
 そうだろう? と笑む。
「ああ。それだけは自信があるがな」
「どんなに心の狭え旦那でも、俺たちにはそれを笑って受け止めてくれる嫁がいる。デカくてあったけえ心で包んでくれるあいつらがいる。つくづく幸せ者だと思うぜ」
「ああ。そうだな。出来の悪い旦那にはもったいねえ器のデカい姐さんたちだ」

 幸せだな、俺たちは――。
 
 ――ああ、とことん幸せだ。

「お前さんたちは本当に素晴らしい伴侶を見つけたものだね。僕も頑張らなくちゃ」
 帝斗も心からの笑顔を浮かべる。そんなふうに瞳を細め合う三人の元に紫月とメビィが戻って来た。
「よう、遼! 帝斗と氷川も。そんなトコに居たんか」
 爽やかな笑顔が再び鐘崎の胸を熱くする。
「遼二さん、周さん、粟津さんも。この度は本当にご迷惑をお掛けしました。アタシ、心を入れ替えて頑張ります!」

 だからもし――

「もしまた一緒にお仕事させていただける機会があったら、その時はどうぞよろしくお願いします!」
 ペコリと頭を下げた彼女に、男たちは笑顔でうなずいた。
「ああ。こちらこそよろしく頼む」
「またなぁ、メビィちゃん! 元気でなぁ!」
 笑顔でチームの元へと駆けていく彼女を男四人で見送った。
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