極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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 その頃、街外れの古い空き家では優秦が着々と企みを進めていた。
 香港で父親の部下だった男たちに声を掛けたものの、なんと蓋を開けてみれば話に乗ってきたのはたった一人――。当てが外れた彼女は憤りのままにその一人に向かって罵倒を繰り返していた。
「なんて薄情な連中かしら! 来たのがアンタ一人だけとはね!」
 男の方は相変わらずに我が侭な娘だと冷笑気味でいる。
「俺だけでもノってやったことを有り難く思って欲しいね、嬢さん。他のヤツらは正直もう懲り懲りだとよ!」
 元はといえばこのお嬢さんの口車に乗せられてファミリー長男坊の婚約者を陥れるなど、とんでもない企てに駆り出されたせいで組織解体にまで追いやられた者たちだ。いくら報酬が出るといっても、二度も玉砕させられるのは勘弁願いたいと思うのは当然であろう。
「連中だってこの二年の間、まともな職にも就けずに辛酸舐めてきたんだ。これ以上あのファミリーを敵に回すなんざ冗談じゃねえってところだろうよ。俺だって実際迷うところだが、報酬を独り占めできるってんならと思って来てやったんだ。それに……あの周風の嫁を好きにできるなら悪くない話だからな」
 どうやら男の目的は報酬よりも風の妻の方らしい。
「言っとくけどあの女のことは最終的に消してくれなきゃ困るんですからね! そりゃちょっとくらい遊ぶのは構わないけど……変な下心出してあの女を連れて逃げるなんてことだけは絶対に許さないわよ!」
 つまり、優秦の目的は風の嫁である美紅を亡きものにしたいということだ。
「アンタたちのお陰でこっちは計画が大幅に狂っちゃったんだから! その分きっちり働いてもらうわよ!」
 優秦はそう念押しすると、企ての全貌を話し始めた。
「いい? アタシの調べたところによると周風たちは見本市を回った後、クライアントと食事に出掛けるわ。その間、あの女を含む五人でオペラを観ることになってる。周兄弟の名前で歌劇場のボックス席が予約されてるから確かよ。その隣のボックスを押さえておいたから、あんたも客として潜り込んでちょうだい」
「俺までオペラを観るんですかい?」
「何暢気なこと言ってんの! あんたが潜り込むのは最初だけよ! 服装は黒で行ってちょうだいね。あの女たちは観劇の前に近くのレストランでディナーをとるようだから、飲み物に睡眠薬を入れるわ。既にそこのレストランにアルバイトとしてアタシが雇った現地人を潜り込ませてあるの」
「睡眠薬――ね。全員を眠らせちまおうってことですかい?」
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