極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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 ウィーン郊外――、時刻は日付をまたごうとしている深夜〇時少し手前だ。

 ポタリ、ポタリ、どこかで水滴の落ちる音がする。身体のどこそこが自由にならない気がするのがもどかしい。
 わずかに足を動かせば周りの壁に反響するような音。天井が高く、広い空間が無意識の内にも脳裏に浮かぶ。空気は冷んやりとしてブルリと寒気に襲われた。
「……ッ?」
 瞼を開けた瞬間、視界に飛び込んできた光景に医師の鄧はカッと瞳を見開いた。
「なに……ッ!?」
 すぐ隣には曹が床に転がっている。その向こうには冰と紫月も同様に横たわっている。
 慌てて身を起こそうとしたが、思うようにならない。どうやら後ろ手に縄のようなもので縛られているようだ。
「これは……」
 いったい何がどうなっているというのだ。自分たちは国立歌劇場のボックス席でオペラを観ていたはずだ。
 身動きの可能な範囲で周囲を見渡せば、えらく天井の高い古い空き家のような場所にいることが認識出来た。意識がはっきりとしてくるごとに、だんだんと今の状況が見えてくる。鄧はこの時点で拉致を悟ったのだった。
(まさか睡眠薬でも盛られたか……)
 とにかくは皆を起こして無事を確かめるのが先決だ。自分に意識があるのだから、おそらくは皆も眠らされているだけだろうとは思えども、一人一人の呼吸や脈拍を確かめねばならない。
 すると、どこからか人の話し声が聞こえてきて、鄧は咄嗟に眠ったふりをし、床へと身を横たえた。
 話しているのは二人の男の声、言語はドイツ語だ。
「しっかし暇だなぁ。あいつらを見張っとっけって言われたが、こうもやることないと飽きてくらぁな。こんな辺鄙な場所じゃ一杯引っかけに行く店もねえし!」
「違いねえ。あいつらには強烈な睡眠薬が盛られてるってんだろ? 全員縛ってあるんだし、見張りなんか必要ねえだろうって!」
「いい加減帰りてえわ。あいつらが目を覚ました頃に改めて集合ってんじゃダメなのか?」
「仕方ねえだろ。あのアジア人の女が一晩ここで見張れってんだからよ」
「だったらせめて女の見張りにして欲しかったね」
「ああ、拉致した中にいた紅一点の女だろ? 寝顔しか見てねえがなかなかのイイ女だったな」
「まあイイ女にゃ違いねえが、俺はアジアンには興味ねえな。女はやっぱり金髪のグラマーに限る!」
「はん! 好き者が! どのみちあの女には男がついてるから、俺たちにゃ回ってこねえさ」
「香港から来たとかいう例の男だろ? にしても、こっちは野郎ばっかり四人のお守りなんざ、とんだ災難だ」
 その会話を聞いて、初めて美紅がいないことに気がつき、鄧は蒼白となった。
(まさか……美紅さんだけ別の場所に連れていかれたのか?)
 男たちの会話は続いている。
「表で一服でもするか」
「ああ、そうすっか。他にやることもねえし」
 二人が外へと出ていったのを確認すると、鄧はすぐさま隣の曹を揺り起こした。
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