極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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「あなたは……!」
「ほう? 嬉しいね。俺の顔を覚えていてくれたってのか?」
 忘れるはずもない。男は以前に自分を手篭めにしようとした内の一人だったからだ。
「あなた……確か優秦さんのところの……」
 しかもこの男は武術にも優れていて、自分の腕では倒せずに負かされてしまったのは苦い記憶だ。あの時、周風らが助けに来てくれなかったら、確実に被害に遭っていただろう。
「あなた……どうしてここに? 曹さんや他の皆んなは……」
「心配するな。あいつらも一緒に捕らえてある。もっともこことは別の場所だがね」
「別の場所……」
「まあ、もうお察しかも知れんが、今回もまたあの我が侭嬢さんの指示であんたらを誘拐するように言われたわけさ」
「誘拐……。では優秦さんが……?」
「そういうこと! あの嬢さんは未だにアンタのご亭主を諦め切れないでいるようだぜ」
 美紅は驚いた。もうあれから二年以上も経っている上、彼女の一家は周直下を抜けて香港を離れたはずである。
「今回アンタたちがこのウィーンに来ると知って、嬢さんが悪巧みを始めたってわけだ」
「……優秦さんが……。それで……あなた方は私たちをどうしようというのですか……?」
 美紅が声を震わせながら尋ねると、男は側まで来てグイと彼女の顎先を掴んでみせた。
「ふん、相変わらずの別嬪だ。他人様の妻になってもアンタの美しさはまったく衰えねえな」
「……は……なしてください! 何をなさるんです……!」
「その上品な物言いもあの頃のまんまだ」
 男はニヤっと笑うと、掴んでいた手を引っ込めて意外なことを口走った。
「実はな、嬢さんからはアンタを始末するようにと言われてるんだ。だが俺はそんなもったいねえことをするつもりはねえ」
「始末……」
「嬢さんはアンタのことがとことん気に入らねえようでな。アンタさえ消えれば、風老板が自分のものになるとでも思っていやがるのさ」
 バカバカしいことだと言って男は笑う。
「それで……優秦さんはどちらにいらっしゃるのですか? 始末って、まさか曹さんたちのことまで……? そんなことは困ります……あの人たちに危害が及ぶなど……あの四人は主人たちにとって、とても大切な方々なのです」
 自分が始末されるかも知れないというのに、他の四人のことの方を気に掛けている。男は半ば呆れながらも美紅の性質の良さに感心したようだった。
「は、ホントにウチの嬢さんとは月とスッポンだな。アンタのような極上の女を始末するなんざ、ますますもったいねえことだ。どうだ、アンタを助けてやるから俺の女にならねえか?」
 真顔で男はじっと見つめてよこした。
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