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ダブルトロア
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「あれが嬢さんの雇ったヤツらなら、俺とは一応仲間ということになります。俺が交渉に出てみます!」
男は一旦美紅を地下室に避難させて、表向きは既に片付けた、つまり葬ったということにすればいいのではと言った。それならば敵の目が美紅に向くこともなかろう。
あとはここにいる男連中で彼らと対峙しなければならないが、美紅に手を出されるよりは数段マシだ。
「分かった。だがお前さん、こっちの言葉は話せるのか?」
ここはドイツ語圏だ。香港在住の彼に交渉ができるかは不安なところだ。
「そいつぁ無理ですけど、英語だったら……。向こうも中には英語が分かるヤツもいるでしょうし、お互いに英語でやり取りすればなんとかなるでしょう。それに案外片言の方が余計なことを言わずに済むでしょうし」
「そうだな……。ではそれでいってみよう。ところでお前さん、なんと呼べばいい」
曹が訊くと、
「自分は楊宇といいます」
と名乗った。
「分かった。では楊宇、頼んだぞ」
「任せてください。曹さんたちはこのままここで隠れていてください!」
美紅には冰が付き添って隣の棟へと急ぐ。紫月は日本刀を携えて待機、鄧も通訳の為にこのまま残ることとなった。敵集団の会話を皆に伝える為だ。
今頃、優秦は風らの前に姿を現している頃だろうか。白々しく『アタシが交渉してあげる』などとほざいているかも知れない。風が言葉通り鵜呑みにするとは思えないが、とにかくは今この状況を乗り切るしかない。楊宇が味方についてくれたことで少しの光明はさしたものの、敵の数から考えれば苦境に違いない。
幸い冰と美紅を避難させた隣の棟にはこの建物の中を通らなければ辿り着けない造りになっている。
「つまり、ここを死守すれば奥方たちはとりあえず安泰だろう」
「では今の内に隣の棟へ通じる出入り口を家具などで塞いでおきましょう」
鄧の案に紫月も手伝って、二人でテーブルやソファなどを動かし簡易的な防護壁をこしらえる。
「楊宇の交渉が上手くいかなかった時は確実に乱闘となるだろう。その際は俺たちも外へ出てこの建物には近付けさせんようにせんと!」
「そうですね。最終防衛ラインとして一人はここのドア付近に残った方が無難でしょう」
「ああ……そうだな」
「だったら俺と曹先生が敵陣に斬り込むとして、鄧先生はここで防波堤の役をお願いできますか?」
「ええ、それはもちろんですが……」
本来であれば鐘崎組の姐という立場の紫月を守る為に曹と鄧が特攻隊となるのが望ましいところだが、唯一の武器である日本刀を扱えるのは紫月だけだ。緊急事態であるし、今は立場云々よりも突破に全力を注ぐべきであろう。とはいえ、紫月を危険な目に遭わせるのは論外だ。曹と鄧にとっては、紫月もまた冰や美紅同様、護るべき主人の伴侶という心づもりでいるからだ。
そんな二人の気遣いを感じたのだろうか、紫月はニッと不敵な笑みを見せながら言った。
「先生方の気持ちは有り難えけど、心配はいらねって! ここは三人で力を合わせて乗り切ろうぜ!」
「紫月君……」
「そうだな。紫月君の言う通りだ。何としても守り抜くぞ!」
多勢に無勢、嵐の前の一瞬の静けさを眼前に誰もが身を引き締めるのだった。
男は一旦美紅を地下室に避難させて、表向きは既に片付けた、つまり葬ったということにすればいいのではと言った。それならば敵の目が美紅に向くこともなかろう。
あとはここにいる男連中で彼らと対峙しなければならないが、美紅に手を出されるよりは数段マシだ。
「分かった。だがお前さん、こっちの言葉は話せるのか?」
ここはドイツ語圏だ。香港在住の彼に交渉ができるかは不安なところだ。
「そいつぁ無理ですけど、英語だったら……。向こうも中には英語が分かるヤツもいるでしょうし、お互いに英語でやり取りすればなんとかなるでしょう。それに案外片言の方が余計なことを言わずに済むでしょうし」
「そうだな……。ではそれでいってみよう。ところでお前さん、なんと呼べばいい」
曹が訊くと、
「自分は楊宇といいます」
と名乗った。
「分かった。では楊宇、頼んだぞ」
「任せてください。曹さんたちはこのままここで隠れていてください!」
美紅には冰が付き添って隣の棟へと急ぐ。紫月は日本刀を携えて待機、鄧も通訳の為にこのまま残ることとなった。敵集団の会話を皆に伝える為だ。
今頃、優秦は風らの前に姿を現している頃だろうか。白々しく『アタシが交渉してあげる』などとほざいているかも知れない。風が言葉通り鵜呑みにするとは思えないが、とにかくは今この状況を乗り切るしかない。楊宇が味方についてくれたことで少しの光明はさしたものの、敵の数から考えれば苦境に違いない。
幸い冰と美紅を避難させた隣の棟にはこの建物の中を通らなければ辿り着けない造りになっている。
「つまり、ここを死守すれば奥方たちはとりあえず安泰だろう」
「では今の内に隣の棟へ通じる出入り口を家具などで塞いでおきましょう」
鄧の案に紫月も手伝って、二人でテーブルやソファなどを動かし簡易的な防護壁をこしらえる。
「楊宇の交渉が上手くいかなかった時は確実に乱闘となるだろう。その際は俺たちも外へ出てこの建物には近付けさせんようにせんと!」
「そうですね。最終防衛ラインとして一人はここのドア付近に残った方が無難でしょう」
「ああ……そうだな」
「だったら俺と曹先生が敵陣に斬り込むとして、鄧先生はここで防波堤の役をお願いできますか?」
「ええ、それはもちろんですが……」
本来であれば鐘崎組の姐という立場の紫月を守る為に曹と鄧が特攻隊となるのが望ましいところだが、唯一の武器である日本刀を扱えるのは紫月だけだ。緊急事態であるし、今は立場云々よりも突破に全力を注ぐべきであろう。とはいえ、紫月を危険な目に遭わせるのは論外だ。曹と鄧にとっては、紫月もまた冰や美紅同様、護るべき主人の伴侶という心づもりでいるからだ。
そんな二人の気遣いを感じたのだろうか、紫月はニッと不敵な笑みを見せながら言った。
「先生方の気持ちは有り難えけど、心配はいらねって! ここは三人で力を合わせて乗り切ろうぜ!」
「紫月君……」
「そうだな。紫月君の言う通りだ。何としても守り抜くぞ!」
多勢に無勢、嵐の前の一瞬の静けさを眼前に誰もが身を引き締めるのだった。
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