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ダブルトロア
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「そう……でしたか。おめでとうございます! 風老板もお慶びになられるでしょう!」
自分たちが先に聞いてしまったことは申し訳ないと思えども、めでたいことに変わりはない。
「だが……そうだな。この時期、外の冷え込みは堪える。あまり無理はできんな」
懐妊が分かったばかりならば二、三ヶ月といったところか。身体的にも大事な時期だ。いかに医師の鄧がついているといえども、この寒さの中、しかも薄着のドレス姿で歩かせるのは危険だ。
「では二手に分かれるか。ここに残って奥方を守る組と外へ出て風老板たちへ連絡する係とに」
「でしたら俺が連絡係を引き受けます。俺は武術に長けているとはいえませんし、お姉様の側には強い方がいた方がいいので」
すかさず冰がその役目を買って出る。
「俺も一緒に行こう。美紅さんには曹さんと鄧先生がついててあげてください」
紫月も冰と共に行くと言う。
「そうだな、奥方のご体調になにかあった時の為に鄧には残ってもらった方がいいだろう。ただ――俺たちは武器を持っていない。日本刀を扱えるのは紫月君だけだし、俺が冰君と共に連絡係になった方が良くないか?」
曹が言うと、楚の部下だった男が、それだったら自分が連絡係を引き受けると申し出た。
「うむ――、だがお前さんは今でも優秦が仲間だと思っている唯一の人間だ。彼女がここへ乗り込んで来た時の交渉役に打ってつけだ」
むろんそれは道理でもあるが、曹にとってみれば冰は自らの主人である周風の弟の大事な伴侶だ。とりあえず味方になったとはいえ、万が一にもこの香港からやって来た男がどこかで裏切らないという確証もない。彼を信用しないとまでは言わないが、冰と二人きりにして絶対的に信頼が置けるかといえば不安が残る。やはり俺が行くべきだろうと曹は言った。
「――それがベストかも知れませんね。私も頼りないながら、多少気功術の心得はあります。対戦のお手伝いくらいはできるでしょう」
鄧はしれっとそんなことを言ったが、その実力を知っている曹は謙遜するなと言って笑った。
「じゃあとりあえず……俺たちがいた隣の棟の地下室に隠れるってのはどうです? あそこなら中から鍵がかけられるんで、外から侵入される心配はないはずです」
香港から来た男が言う。
「そうだな……。ひとまずそれしかあるまい」
ひとつ憂いがあるとすれば、地下に潜って万が一火でも放たれたらまずい。逃げ場が無くなるからだ。かといってこのまま地上に居れば、乱闘に巻き込まれた際、危険なのは確かだ。
どうすべきかと考えていた時だ。なんだか外が騒がしくなった気がして窓からそっと覗くと、そこには驚くような光景が待っていて誰もが眉をひそめさせられることとなった。
「おいおいおい……何だ、ありゃあ……」
「バイクの集団……ですね。暴走族みたいな雰囲気ですが……」
ザッと三十台はいるだろうか、いやそれ以上か。
「まさか嬢さんがもうチンピラ連中を差し向けてよこしたってのか……」
こうなったら猶予はない。
自分たちが先に聞いてしまったことは申し訳ないと思えども、めでたいことに変わりはない。
「だが……そうだな。この時期、外の冷え込みは堪える。あまり無理はできんな」
懐妊が分かったばかりならば二、三ヶ月といったところか。身体的にも大事な時期だ。いかに医師の鄧がついているといえども、この寒さの中、しかも薄着のドレス姿で歩かせるのは危険だ。
「では二手に分かれるか。ここに残って奥方を守る組と外へ出て風老板たちへ連絡する係とに」
「でしたら俺が連絡係を引き受けます。俺は武術に長けているとはいえませんし、お姉様の側には強い方がいた方がいいので」
すかさず冰がその役目を買って出る。
「俺も一緒に行こう。美紅さんには曹さんと鄧先生がついててあげてください」
紫月も冰と共に行くと言う。
「そうだな、奥方のご体調になにかあった時の為に鄧には残ってもらった方がいいだろう。ただ――俺たちは武器を持っていない。日本刀を扱えるのは紫月君だけだし、俺が冰君と共に連絡係になった方が良くないか?」
曹が言うと、楚の部下だった男が、それだったら自分が連絡係を引き受けると申し出た。
「うむ――、だがお前さんは今でも優秦が仲間だと思っている唯一の人間だ。彼女がここへ乗り込んで来た時の交渉役に打ってつけだ」
むろんそれは道理でもあるが、曹にとってみれば冰は自らの主人である周風の弟の大事な伴侶だ。とりあえず味方になったとはいえ、万が一にもこの香港からやって来た男がどこかで裏切らないという確証もない。彼を信用しないとまでは言わないが、冰と二人きりにして絶対的に信頼が置けるかといえば不安が残る。やはり俺が行くべきだろうと曹は言った。
「――それがベストかも知れませんね。私も頼りないながら、多少気功術の心得はあります。対戦のお手伝いくらいはできるでしょう」
鄧はしれっとそんなことを言ったが、その実力を知っている曹は謙遜するなと言って笑った。
「じゃあとりあえず……俺たちがいた隣の棟の地下室に隠れるってのはどうです? あそこなら中から鍵がかけられるんで、外から侵入される心配はないはずです」
香港から来た男が言う。
「そうだな……。ひとまずそれしかあるまい」
ひとつ憂いがあるとすれば、地下に潜って万が一火でも放たれたらまずい。逃げ場が無くなるからだ。かといってこのまま地上に居れば、乱闘に巻き込まれた際、危険なのは確かだ。
どうすべきかと考えていた時だ。なんだか外が騒がしくなった気がして窓からそっと覗くと、そこには驚くような光景が待っていて誰もが眉をひそめさせられることとなった。
「おいおいおい……何だ、ありゃあ……」
「バイクの集団……ですね。暴走族みたいな雰囲気ですが……」
ザッと三十台はいるだろうか、いやそれ以上か。
「まさか嬢さんがもうチンピラ連中を差し向けてよこしたってのか……」
こうなったら猶予はない。
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