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ダブルトロア
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「私は優秦の出生について至急調べることにした。その結果、お前さん方の娘――つまりこの林香汐嬢だが――彼女は産まれた病院ですり替えに遭っていた事実を突き止めたというわけだ」
「……すり替え……ですと? まさかそんな……」
光順も妻もめっぽう驚かされてしまった。
では自分たちは今まで何の関係もない赤の他人を娘として育ててきたというわけか――。すぐには事の次第を理解できずに、光順ら夫妻は絶句してしまった。
「其方らが驚くのも無理はない。すぐには信じられないだろうことも承知だ。だがこれは事実だ。調べたところ、この娘さんと優秦は同じ病院で生まれ、新生児室では隣のベッドだったそうだ。優秦の母親というのは非常に狡猾な女だったようでな。出産当時、既にお腹の子の父親とは縁が切れていたそうで、一人で育てていくことに自信が持てなかったようだ」
そこで看護師に金を握らせて隣のベッドの赤児と自分の娘をすり替え、退院後すぐにその赤児を孤児院の門前に捨てたのだそうだ。
「自分の本当の娘はどこの誰とも分からない夫婦が愛情を注いで育ててくれるだろうと思ったのだろうな。すり替えた他人の子を躊躇なく孤児院に放り出して逃げたというわけだ」
隼は当時の病院をくまなく調査し、状況と共に念の為DNA鑑定も行った結果、光順らの本当の娘を捜し当てたのだと告げた。ウィーンでの事件を受けて、隼が鄧兄弟をドイツの名医師であるクラウス・ブライトナーの元へと遣わせたのは、実はこの鑑定を行う為だったのだ。光順と優秦の使用したグラスなどからDNAを採取し、最新鋭の機器が揃っているドイツの病院で鑑定を遂行させたというわけだ。
「そんな……! では……私どもは赤の他人の子供を育ててきたというわけですか……?」
光順は蒼白となり、婦人の方は驚愕の為か、両手で顔を覆ったまま床へとへたり込んでしまった。
「まったくもって不幸なことだと思う。正直なところ掛ける言葉も見つからないというのが本音だ。しかし本物のお嬢さんを捜し出すことができた。見ての通り彼女は見目麗しく心根もやさしい素晴らしい女性だ」
彼女は優秦の生みの親によって預けられた孤児院で育ち、修業後は育ててもらった恩に報いたいと、その孤児院で働き始めたそうだ。勤務態度も真面目でやさしく、同僚や子供たちからも慕われているという。
「二十年以上も離れて暮らさなければならなかったことは不憫に思うが、その分これからは本当の家族として幸せになって欲しい。それが私の願いだ」
「頭領・周……」
光順は娘の顔をマジマジと見つめては堪らずに涙を浮かべた。
「本当に……このお嬢さんが私どもの娘だと……」
「間違いない。鑑定の結果ではもちろんだが、彼女の容姿や性質だけを見ても、誠お前さん方夫婦の子であると確信できる」
確かに娘の面立ちは妻の若い頃によく似ているように思える。
「……すり替え……ですと? まさかそんな……」
光順も妻もめっぽう驚かされてしまった。
では自分たちは今まで何の関係もない赤の他人を娘として育ててきたというわけか――。すぐには事の次第を理解できずに、光順ら夫妻は絶句してしまった。
「其方らが驚くのも無理はない。すぐには信じられないだろうことも承知だ。だがこれは事実だ。調べたところ、この娘さんと優秦は同じ病院で生まれ、新生児室では隣のベッドだったそうだ。優秦の母親というのは非常に狡猾な女だったようでな。出産当時、既にお腹の子の父親とは縁が切れていたそうで、一人で育てていくことに自信が持てなかったようだ」
そこで看護師に金を握らせて隣のベッドの赤児と自分の娘をすり替え、退院後すぐにその赤児を孤児院の門前に捨てたのだそうだ。
「自分の本当の娘はどこの誰とも分からない夫婦が愛情を注いで育ててくれるだろうと思ったのだろうな。すり替えた他人の子を躊躇なく孤児院に放り出して逃げたというわけだ」
隼は当時の病院をくまなく調査し、状況と共に念の為DNA鑑定も行った結果、光順らの本当の娘を捜し当てたのだと告げた。ウィーンでの事件を受けて、隼が鄧兄弟をドイツの名医師であるクラウス・ブライトナーの元へと遣わせたのは、実はこの鑑定を行う為だったのだ。光順と優秦の使用したグラスなどからDNAを採取し、最新鋭の機器が揃っているドイツの病院で鑑定を遂行させたというわけだ。
「そんな……! では……私どもは赤の他人の子供を育ててきたというわけですか……?」
光順は蒼白となり、婦人の方は驚愕の為か、両手で顔を覆ったまま床へとへたり込んでしまった。
「まったくもって不幸なことだと思う。正直なところ掛ける言葉も見つからないというのが本音だ。しかし本物のお嬢さんを捜し出すことができた。見ての通り彼女は見目麗しく心根もやさしい素晴らしい女性だ」
彼女は優秦の生みの親によって預けられた孤児院で育ち、修業後は育ててもらった恩に報いたいと、その孤児院で働き始めたそうだ。勤務態度も真面目でやさしく、同僚や子供たちからも慕われているという。
「二十年以上も離れて暮らさなければならなかったことは不憫に思うが、その分これからは本当の家族として幸せになって欲しい。それが私の願いだ」
「頭領・周……」
光順は娘の顔をマジマジと見つめては堪らずに涙を浮かべた。
「本当に……このお嬢さんが私どもの娘だと……」
「間違いない。鑑定の結果ではもちろんだが、彼女の容姿や性質だけを見ても、誠お前さん方夫婦の子であると確信できる」
確かに娘の面立ちは妻の若い頃によく似ているように思える。
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