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ダブルトロア
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「シラを切るな優秦。お前の差し金で雇われた者たちから証言は取れているんだぞ」
「雇われた者って誰なんですか? もしかして楊宇が父の元部下だったからというだけで、アタシが企てたとでもおっしゃるの? 冗談じゃないわ! アタシは本当に何も知らないし、何もしてない! そいつらがアタシを嵌めようと嘘をついているんじゃないですか?」
まるで楊宇のせいだと言い張る。あまりの往生際の悪さに、さすがの隼も閉口させられてしまった。
「楚光順、ちょっといいか」
隼は座っていた椅子から立ち上がると、光順と二人きりで話しがしたいと言って、一旦中座した。
その後ろ姿を見つめながら、優秦は小さな舌打ちを繰り返す。周囲で見ていた側近たちにしてみても、この横柄な態度には怒りを通り越してただただ呆れるばかりであった。
そんな娘とは天と地か、別部屋へ行くと光順はまたもや土下座の勢いで謝罪を繰り返した。
「申し訳ございません! 頭領・周……重ね重ねのご無礼をお許しください……!」
「構わん。お前さんのせいではない」
彼を横目に、隼は次の間に待たせていた人物に声を掛けた。
「こちらへ」
その人物が姿を現すなり、光順はまたしても驚きに硬直してしまった。なんとそれは彼の妻だったからだ。
「お……前、何故ここに」
妻はウィーンの自宅に置いてきたはずである。光順が絶句していると、隼が事の次第を説明した。
「実は私が呼んだのだ。お前さんら夫婦に大事な話があってな」
「大事な話……」
わけが分からず、光順は不安げに視線を泳がせた。
「楚光順、お前さんは我がファミリーにいる頃から人望も厚く、私はむろんのこと組織の者たちからも信頼を得る素晴らしい人格者だった。細君にしても然りだ。ところが娘の方はお前さんたち夫婦とは似ても似つかない無法者だ。ここのところがどうにも気になってな」
隼はそう前置くと、次の間に控えていた側近に声を掛けた。
「連れて来てくれ」
「は、かしこまりました」
側近と共に現れたのは、見目美しい一人の娘だった。容姿もさることながら、たいそう穏やかな表情をした娘で、歳の頃は優秦と同じくらいだろうか。一目で性質の良さそうなやさしい心根の持ち主だと分かるような雰囲気をまとっていた。
「あの……頭領・周……こちらは?」
光順はまるで何かに突き動かされるように逸った目で隼を見つめた。
「いい娘さんだろう? 彼女の名は林香汐、現在この香港のとある施設で真面目に働いている」
「……はぁ……」
「今回、優秦がウィーンで起こした事件について息子たちから報告を受けて、急遽捜し当てたお嬢さんだ。実はこれまでもずっと心の奥に引っ掛かっていたのでな」
隼は驚いてくれるなと言ってから、真実を打ち明けた。
「彼女はお前さん方夫婦の本当の娘だ」
え……ッ!?
光順も妻も一瞬言われていることが理解できないといった表情で固まってしまった。
「驚くのも無理はなかろう。だが私は二年前の時もお前さんら夫婦の子供があのような大それた企てを起こしたことが信じられなかった。あの優秦という娘はまるでお前さん方の本当の子供ではないのではと思ったほどだ」
その時は深く追及しないまま放置してしまったのだが、今回またもや優秦がウィーンで二度目の企てを起こしたと知って、いよいよ調べる必要を実感したのだと隼は言った。
「雇われた者って誰なんですか? もしかして楊宇が父の元部下だったからというだけで、アタシが企てたとでもおっしゃるの? 冗談じゃないわ! アタシは本当に何も知らないし、何もしてない! そいつらがアタシを嵌めようと嘘をついているんじゃないですか?」
まるで楊宇のせいだと言い張る。あまりの往生際の悪さに、さすがの隼も閉口させられてしまった。
「楚光順、ちょっといいか」
隼は座っていた椅子から立ち上がると、光順と二人きりで話しがしたいと言って、一旦中座した。
その後ろ姿を見つめながら、優秦は小さな舌打ちを繰り返す。周囲で見ていた側近たちにしてみても、この横柄な態度には怒りを通り越してただただ呆れるばかりであった。
そんな娘とは天と地か、別部屋へ行くと光順はまたもや土下座の勢いで謝罪を繰り返した。
「申し訳ございません! 頭領・周……重ね重ねのご無礼をお許しください……!」
「構わん。お前さんのせいではない」
彼を横目に、隼は次の間に待たせていた人物に声を掛けた。
「こちらへ」
その人物が姿を現すなり、光順はまたしても驚きに硬直してしまった。なんとそれは彼の妻だったからだ。
「お……前、何故ここに」
妻はウィーンの自宅に置いてきたはずである。光順が絶句していると、隼が事の次第を説明した。
「実は私が呼んだのだ。お前さんら夫婦に大事な話があってな」
「大事な話……」
わけが分からず、光順は不安げに視線を泳がせた。
「楚光順、お前さんは我がファミリーにいる頃から人望も厚く、私はむろんのこと組織の者たちからも信頼を得る素晴らしい人格者だった。細君にしても然りだ。ところが娘の方はお前さんたち夫婦とは似ても似つかない無法者だ。ここのところがどうにも気になってな」
隼はそう前置くと、次の間に控えていた側近に声を掛けた。
「連れて来てくれ」
「は、かしこまりました」
側近と共に現れたのは、見目美しい一人の娘だった。容姿もさることながら、たいそう穏やかな表情をした娘で、歳の頃は優秦と同じくらいだろうか。一目で性質の良さそうなやさしい心根の持ち主だと分かるような雰囲気をまとっていた。
「あの……頭領・周……こちらは?」
光順はまるで何かに突き動かされるように逸った目で隼を見つめた。
「いい娘さんだろう? 彼女の名は林香汐、現在この香港のとある施設で真面目に働いている」
「……はぁ……」
「今回、優秦がウィーンで起こした事件について息子たちから報告を受けて、急遽捜し当てたお嬢さんだ。実はこれまでもずっと心の奥に引っ掛かっていたのでな」
隼は驚いてくれるなと言ってから、真実を打ち明けた。
「彼女はお前さん方夫婦の本当の娘だ」
え……ッ!?
光順も妻も一瞬言われていることが理解できないといった表情で固まってしまった。
「驚くのも無理はなかろう。だが私は二年前の時もお前さんら夫婦の子供があのような大それた企てを起こしたことが信じられなかった。あの優秦という娘はまるでお前さん方の本当の子供ではないのではと思ったほどだ」
その時は深く追及しないまま放置してしまったのだが、今回またもや優秦がウィーンで二度目の企てを起こしたと知って、いよいよ調べる必要を実感したのだと隼は言った。
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