極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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 翌る日、小川は泰造に連れられて鐘崎邸へと謝罪に訪れていた。朝一番で顔を出したので、若頭の鐘崎と側近たちはもちろんのこと、紫月、それに長の僚一までもが事務所にいた。
 驚いたのは鐘崎だ。この件については親方に黙っていてやると言ったはずなのに、わざわざ自分で暴露したわけかと目を丸くしている。だが裏を返せばその正直なところに好感を得たのも事実であった。
「ふ――、正直なヤツだ」
 せっかく黙っていてやると言ったのにと、微苦笑を浮かべる。そんな鐘崎の前で、小川は気まずそうに頭を掻いた。
「いえ、若頭さんのお気持ちはすげえ嬉しかったっス! けど、それをいいことに黙ってたんじゃ男が廃るっつーか、情けねえと思いまして。本当にすいませんでした!」
 この通りですと深々頭を下げたのに、鐘崎も紫月も清々しい気持ちにさせられるのだった。
「しかしお前さん、えらく身が軽いことだな。昨夜、監視カメラの映像でお前さんが侵入した時の様子を確認したんだが……」
 よくぞあの高い塀を乗り越えたものだと感心を口にする。
「足場になりそうなモンはねえってのに、あの塀を身ひとつで登ったんなら相当なもんだ」
 鐘崎に続いて父の僚一も大したものだとうなずいてみせた。
「俺も映像を見たが、まるで時代劇に出てくる忍のような身のこなしだったな」
 確かに認めざるを得ないと、一緒に映像の確認に当たった組員たちも驚いていたようだ。
 組長と若頭から揃って褒められた小川は照れ臭そうに苦笑してしまった。
「いやぁ、そんな大層なこっちゃねえスけど……。身が軽いのだけが取り柄だって昔っから親父にも言われてまして。ついでにオツムの方も軽いって呆れられてるっス」
 バカ正直な返答に思わず笑いを誘われる。
「はは、面白え兄ちゃんな!」
 紫月も感心しながら好感を抱いたようだった。そんな一同に親方である泰造が付け加えた。
「実はコイツの家も造園屋でしてな。親父さんは庭師としてもですが、山奥の森林伐採なんかも手掛けておりましての。非常に腕のいい職人なんです。コイツも小せえ頃から親父さんの背中を見て育ったんで、運動神経だけは並外れてるってくらい抜群なんです」
 脚立に乗り、高い木々の枝を剪定する父親の側で、それこそ遊び場さながら木に登ったりして育ったそうだ。泰造と小川の父親とは昔からの馴染みで、泰造の方が年齢的にも大先輩ではあるが、互いに腕を認め合っている仲間ということだった。その息子を見習いとして預かることになったのも、そういった縁からだったそうだ。
「なるほど。親父さんも庭師とな」
 これは将来が楽しみだとばかりに僚一以下全員が納得させられたのだった。
「そんなわけでこれからもこちら様にお邪魔させていただく際は、コイツも連れて参ります。しょっぱなからご無礼をやらかして申し訳ない限りですが、どうかよろしくお見知りおきくだせえ」
 深々と頭を下げる泰造に、僚一らもこちらこそよろしく頼むと言って、若い庭師見習いの不法侵入事件は落着となったのだった。
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