極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「本当に、あの時もしもお嬢さんがコイツを見つけてくれなかったら、今こうしていることもできなかったかも知れません。お二人には何と感謝を申し上げてよいか、本当にありがとうございました」
 僚一もまた、息子と共に頭を下げる。そう――辰冨親娘は鐘崎が幼い頃に川で溺れ掛かっていた時に偶然通り掛かり、助けてくれた命の恩人だったのだ。

 それは今から二十余年前、鐘崎が小学三年生頃のことだった。十日ばかりの長雨続きの後、ようやくと太陽が顔を出した午後の河川敷で事は起こった。鐘崎らの同級生だった近所の子供・鉄也が犬の散歩中に川へと落ちてしまったことから始まった。
 鐘崎は紫月と、それにもう数人の友達と共に河川敷でサッカーをしようと出掛けて行った時のことだ。クラスメイトの鉄也が犬と一緒に川に投げ出されているのを発見して大騒ぎになったのだ。
 昨日までの長雨の影響で河川は水かさを増しており、普段より流れも格段に早かった。聞けばどうやら川に落ちた犬を助けようとして、鉄也もまた溺れ掛かっているとのことだった。
 当時から体格の良かった鐘崎は、何とかして鉄也を助けようと真っ先に流れの早い川へと足を踏み入れた。その結果、鉄也と犬は無事に岸へと上がれたのだが、押し上げる際に流れに身体を取られた鐘崎が川底の石に足を挟まれてしまい身動きが取れなくなってしまったのだ。
 紫月はすぐさまクラスメイトたちに言って鐘崎組へ知らせてくれるように使わせた。応援が来るまでの間、滑落防止用に備えられていた柵があることに気が付き、咄嗟にそれに掴まると、もう片方の手を伸ばしてこれ以上鐘崎が流されないよう必死に手を差し伸べた。
『遼! がんばれッ! すぐに助けが来る! ぜってー離すなよッ!』
 鐘崎に比べれば華奢な紫月は、下手をすれば自身も流れに飲み込まれそうになりながらも必死で手を繋ぎ止めていた。
『紫……月ッ、危ねえ……! いいからもう手ぇ離せ! おめえまで流されちま……ッ』
 そう言いながらも、急な流れが作る波間にすっぽりと頭まで飲み込まれ、何度も何度も水面に顔を出したり飲み込まれたりを繰り返しているといった最悪の状況だった。いかに体格が良くても所詮は子供だ。流されないように踏ん張っているだけで精一杯なのだ。
『誰が離すかってんだッ! 死んだって離さねえ! おめえこそ手ぇ離すんじゃねえぞ! 離したらブッ殺すかんな!』
『よせ、紫月! ……この手を離……! てめえまで……イカれちま……ッ』
『遼ッ! がんばれ! あとちょっとで助けが来っからッ! 今、おっちゃんたちを呼びに行ってもらってる……あとちょっとだからッ!』
 二人が死闘を繰り返していたその時だった。
「あら? パパ……ねえパパ! あそこで人が溺れてる!」
 ちょうど辰冨と共に犬の散歩に来ていた鞠愛が二人に気がついたのだ。
 辰冨はすぐさま河川敷の遊歩道から駆け下りて行き、無事に鐘崎を岸へと引っ張り上げてくれた。
 その後間もなく鐘崎組から源次郎以下組員たちが駆け付けて、大事には至らずに済んだ――とまあそういった経緯であった。
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