極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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 新たな事が起こったのはそれから数日が経った頃だった。またしても鞠愛が組を訪ねて来て、早速に庭が見たいと言い出したのだ。
 先日、辰冨からもそう聞いていたので折込済みとはいえ、幹部の清水などは少々気が重い表情を隠せない。一方の鞠愛自身も、先の外出デートで少々懲りたわけか、鐘崎邸の中で会うなら安心だと思ったようである。
 この日も紫月は自治会の会合へ出掛けていて留守だった。たまたま鐘崎は事務所にいた為、致し方なく中庭をへ案内する流れになってしまったのだった。
 鞠愛の噂は組中に広まっていたので、何かにつけて心配した者たちがゾロゾロと中庭に集まってくることとなった。鐘崎の側には清水以下数名の組員たちが姿勢を正して直立しているといった徹底ぶりだ。誰もが少なからず鞠愛を疎ましく思っていた為に、少々仰々しいくらいの御付きぶりで顔を揃えていたわけだが、皆、警戒のつもりだったものの実はこれが逆効果であった。鞠愛にとっては大勢の男たちを従えた鐘崎に更なる恋情を抱いてしまったようだった。
 中庭にはちょうど泰造と小川が来ていて作業の最中であったが、鞠愛からすれば組員のみならず庭師までもが仕えているほどの立派な家柄なのだと思ったようだ。ともすれば鐘崎と共に自分も大事にされていると錯覚しているかのような素振りで、終始浮かれ気味であった。
「素敵なお庭ね! ここへ来たのはアタシがあなたを助けてあげたあの時以来ね。子供だったからあまりよく覚えてないけれど、こんなにたくさんの木が植っていたなんてね」
 今はちょうどサツキ躑躅ツツジが満開を迎えていて、鮮やかな濃いピンク色が見事だった。
「綺麗ねえ。アメリカの、うちのパパの官邸にもいろんな花が植えられているけど、さすがにツツジは無かったわ。うちはね、薔薇のアーチがそれは素敵なのよ! そうだわ、遼二さんにも今度是非遊びに来て欲しいわ!」
 そう言いながら鐘崎の腕に抱きついたりして上機嫌だ。組員たちはそんな二人の四方を固めていたものの、さすがに口出しすることまではできずにいる。その後も鞠愛は鐘崎を庭の中央へと引っ張り出しながら方々散策して歩き、石橋を渡る際にはよろめいて鐘崎に抱き留められるなど、見るに堪えない時が続く。察するに『私と彼とはこんなに親密な仲なのよ』ということを皆に見せつけたいのだろうが、それに対して組員の誰も口を挟むわけにはいかない。庭師の小川はいよいよ苛立つ気持ちを抑えきれずにいた。
「あの、お客さん……いい加減にして欲しいス」
 側を通り掛かった鞠愛に向かって、ついぞそう声を掛けてしまった。

「……は? 何なの、あなた」

 ツンと結ばれた唇は尖っていて、ジロリと見やる視線も険を帯びている。対する小川も仁王立ちの状態で鞠愛を睨みつけた。
「こちらの若頭さんには姐さんがいらっしゃるんスよ」
 当の鞠愛は『だから何?』とでもいうように眉間に皺を寄せながら小川に向かって思い切り顎でしゃくる。その間、未だ鐘崎の腕にベッタリとしがみついたままだ。
「若さんには姐さんがいらっしゃると言ったんだ。アンタも若頭さんが結婚されてるの知ってるっしょ? あんまベタベタするのは失礼ってもんじゃないスかね」
 苛立ちを抑え切れずか、いよいよ苦言が口をついて出てしまった。
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