極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「辰冨さん、俺が幼い頃にあなた方に命を救っていただいたことを心から感謝しております。今もこうして変わりなく暮らしていられるのはあなた方のお陰に他なりません。また、この感謝の気持ちとご恩はいつまでも忘れませんし、変わることはございません。それと同時に、俺にとってこの紫月はこの世で唯一心の底から尊敬して愛している妻です。確かに世間から見れば男同士のくせにと奇異に思われることがあるというのも承知しています。ですが自分はこいつと共に生涯を生きたいと思い入籍いたしました。おっしゃる通り、戸籍の上では配偶者という明記ではないかも知れませんが、俺にとって配偶者と呼べるのはこの紫月しかおりません。これまでも、これからも、あなた方への恩と同様にこの紫月に対する想いは生涯変わることはございません」
 どうかお察しいただきたく思いますと、二人揃って丁寧に頭を下げた。
 その固い思いに、辰冨は驚きつつもこれ以上の無理強いは難しいと思ったようだ。
「……そうですか。正直に言ってしまうと、残念な気持ちは拭えないがね。だがそこまでお気持ちが決まっているならあまり無理を言っても申し訳ないだろうね」
 父親の方は引き下がる素振りを見せたが、娘の方は納得がいかないようだ。
「ね、でも遼二さん。よく考えてみて。もしもあの時、アタシたちが助けなかったら、あなたは死んじゃってたかも知れないのよ? 別に恩を売りたいとかそんなつもりじゃないけど、この組にだって後継ぎは必要じゃない? それについてはどうなさるおつもりなのかしら。今はまだ若いからって思って考えていないのかも知れないけど、例えば養子を取ったとしてもご両親が二人とも男だって知れれば、周りからいろいろ言われて子供にとっても可哀想じゃないかしら? それに引き換え、アタシとだったら世間から後ろ指をさされることもないわ。……もしどうしてもって言うんだったら紫月さんとはすぐに切れなくてもいいわ。子供が大きくなった頃にまたどうするか考えれば……」
 いいじゃない? と言おうとして、さすがに鐘崎に遮られた。
「お嬢さん、申し訳ありません。お気持ちはたいへん有り難く存じますが、俺はこいつ以外に配偶者を持ちたいとは思いません。その相手がお嬢さんでなく、他の誰でも一緒です。紫月以外の誰かと後継ぎの為だけに縁を持つ気持ちはありません。どうかご理解いただければ有り難く思います」
 はっきりとそう告げた鐘崎に、鞠愛は眉を吊り上げた。
「……随分と強情でいらっしゃるのね! でもあなたがどう思おうと、お父様の……ここの組長さんからしたらどうかしら? こんなに大きな組を作られて、男手ひとつで一生懸命あなたを育てて、孫の顔も見られないなんてお気の毒じゃないかしら? せっかくアタシたちが救ってあげた命なのよ? そのくらい親孝行しても当然だとは思われないの?」
「――おっしゃることは分かります。ですが親父も私共のことは理解してくれています」
「理解って……! それはお父様がやさしいからでしょう? でも後継ぎがいないとなれば組も続かないのよ? お父様が苦労して築き上げたものをあなたの強情のせいで親子二代で潰すおつもり?」
 鐘崎はさすがに眉根を寄せてしまった。
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