極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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 しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのは紫月の父親の飛燕だった。
「いいんじゃねえか。お前たちの気持ちはよく分かっているつもりだ。遼二坊と紫月がそうしたいと思うのならば私に異存はないよ」
 そう言いながら隣の僚一を見やる。
「僚一、お前さんはどうだ」
「ああ。飛燕がそう言うのなら俺も異存はない」
 父親たちの言葉を受けて鐘崎と紫月は大きな瞳を見開いては対面の親たちを見上げた。
「深いご理解をいただき感謝いたします」
「ありがとうございます!」
 二人は今一度畳に手をついて深々と頭を下げた。
「では早速に彫り師を手配せねばならんな。遼二坊のを彫ってくれたのはウチの綾乃木君のお父上だったな?」
 実はそうなのだ。綾乃木天音とは元々僚一からの伝手で知り合い、道場を手伝ってもらうことになったわけだが、その伝手というのは綾乃木の父親に鐘崎の紅椿を彫ってもらった縁から来ているのだった。
 その綾乃木といえば無免許ながら凄腕の医師であるのは皆承知だが、彼の父親はその道一本の彫り師である。裏の世界ではよくよく名の知れた名門処で、鐘崎組とも昔から縁のある人物だった。
「天音君の親父殿は京都にお住まいだったな。彫り物の範囲にもよるが、遼二のと対にするというなら結構な大仕事だぞ」
 鐘崎の紅椿は肩から胸、それに腕にかけても入っている。まあ周焔のように背中全面というわけではないから、それよりは規模が小さいものの、冰の肩に入っているような小さい白蘭よりは格段に広範囲となるだろう。体力的にはもちろんのこと、時間的にもかなりの日数を費やすことが予想される。
「天音君の親父殿に関東へいらしてもらうという手もあるが、我々より少々ご高齢だしな。長期間拘束するとなると難しいかも知れん。やはり紫月が京都へ出向いて彫ってもらうのが筋か……」
「だが、遼二坊からしたら気が気でないんじゃねえか? どんなに急いでもひと月そこらは掛かるだろうが」
 その間、紫月一人を京都へやったままで鐘崎が耐えられるのかと飛燕が笑う。鐘崎の紫月に対する愛情の深さははたで見ていても明らかだ。独占欲も当然強い上に心配性な性質をよくよく分かっているからこその言葉なのだ。
「ふむ、まあ我が組としても若頭と姐さんが揃って長期不在となると、さすがに厳しいところではあるな。俺と源さんがいるから大丈夫だと言ってやりたいところだが、俺の方はいつ海外からの依頼が入らんとも限らんからな。遼二には留守番として組に居てもらわにゃならんか……」
 どうしたものかと思っていたところへ当の綾乃木がお茶を持ってやって来た。
「すみません、不躾ながらお話が聞こえてしまったもので恐縮です。もしもよろしければ僭越ながら私にやらせてはいただけないでしょうか」
「天音君、キミがかね?」
「はい。元々私は父の後を継いで彫り師になれと言われていたのですが、医学の方に興味が出てしまいまして、勝手をした身です」
 医大へ行き学問を積んだものの医師免許を取らなかったのは、裏の世界とは切っても切れない親密な関係にある父親の影響であったらしい。
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