極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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 そうして紫月が実家へと戻ってから、鐘崎もまたでき得る限り道場へと様子見に立ち寄る日々が続いた。紫月本人から夜は組へ帰って来ると言われていたものの、わずかの距離であっても傷に障るといけないという思いから、そのまま実家で過ごさせることに決めた。もちろん鐘崎にとって愛しい者と共に眠れない日々は忍耐と言えなくもないが、今は何をおいても紫月の体調が一番である。まあ昼間は顔を見に行けるわけだし、泊まることも可能だ。夫婦にとってたまにはこうしたひと時も悪くない。戻って来た時の喜びもひとしおというものだ。鐘崎はもちろん、誰にとっても完成の時が待ち遠しく思えるのだった。

 そんなある晩のことだった。ここ最近は珍しく海外出張も入っていない僚一が久々に一杯やろうと言って鐘崎の部屋へとやって来た。親子二人水入らずというのもまた珍しい機会だ。
「どうだ。嫁さんがいなくて寂しくしてるといけないと思ってな」
 そう言って揃いのグラスを差し出す。バーボンの飴色の中心で揺れる透明な氷がカランと心地好い音を立てている。
「このツマミはチョコレートか? こっちはクッキー――ね」
 息子の部屋のバーカウンターには酒の他にたんまりと菓子類も揃えられていた。甘い物好きの紫月の為であろう。僚一は山とある菓子類をひとつひとつ手に取って眺めては、嬉しそうに瞳を細めながらゆっくりとした所作でソファへと腰を落ち着けた。
「たまには二人で飲むのも悪くなかろう。こんな機会も珍しいからな。お前にひとつ話しておきたいことがある」
「話しておきたいこと?」
 鐘崎は首を傾げながらも父の対面へと腰を下ろした。
「遼二、お前さん自分についてどう思う?」
「……は? どうって……」
「自分で自分をどう思うかと訊いている」
「どうって……そうだな。正直不甲斐ねえっていうか、情けねえことだらけだ。まだまだ親父を継ぐには勉強も経験も足りねえ甘ちゃん……と思ってる」
 これまでのこともそうだし、つい先日の辰冨親子の件にしても結局自分一人では対処しきれなかったことを含めてそんなふうに思うのだろう。だが僚一が言ったのはそういう意味ではなかったようだ。
「まあ謙遜するな。確かに女の件やなんかでは至らんところもあるだろうが、仕事の面では良くやってくれている。お前は頭も切れるし洞察力も鋭い。仕事絡みでなくとも、紫月や冰が拉致されたりなんかの非常事態でも感働きは抜群だ。行動力もある。うちの組員たちにも尊敬される立派な若頭だと思うぞ」
「……ンだよ急に。そんな誉めちぎるなんざ……」
「別に褒めたわけじゃねえ。事実を言ったまでだ。それより俺が訊きたいのはお前がお前自身についてどう思うかということだ。例えばそう、容姿の点ではどうだ?」
 お前は自分の容姿についてどう思うと訊かれて、鐘崎はますます首を傾げさせられてしまった。
「どうって……背はまずまず伸びたし、運動神経もそこそこだろうとは思ってる。まあ親父や氷川に比べりゃほんのちょっと身長が足りねえが、仕事を遂行する上では体力もある方だと思うから、そんなふうに産んでくれた親父とお袋には感謝しねえとと思ってる」
 僚一は満足そうに笑いながらも鐘崎にとって更に首を傾げさせられるようなことを訊いた。
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