極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「そうだな。背も高えし引き締った筋力も立派だ。体つきは言うことなしとな。だったらツラはどうだ? お前は自分のツラをどう思う」
「ツラだ? どうって言われても……。親父によく似てるなくらいしか……」
「ほう? よく分かってるじゃねえか。さすがにイイ男の息子だな」
 バーボンのグラスを揺らしながら得意げに笑う。いったい何が言いたいのかまったく分からない鐘崎は、怪訝そうに眉根を寄せながらも父親を凝視してしまった。
「何が言いたい……?」
「ふむ、いいだろう。では本題だ。遼二、お前はな。傍目から見てもいわゆる美男子といえる。まあそれはこの俺譲りだから当然なんだが?」
 ニッと悪戯そうに笑みながらフフンと笑う。
「俺譲りって……まあ傍目から見てもそっくりだって言われるのは事実だけどな」
「そうだな。面構えはもちろんだし身体つきも立派で男としては理想的だろう。つまりお前はイイ男だ。お前自身、自分が優れた容姿を持っているイイ男だというのを本能で分かっているのさ」
 鐘崎にとっては寝耳に水というよりも、ますます言いたいことが分からなくなるような言い分である。
「てめえでてめえをイイ男だと思ってるだって? 俺、そんなナルシストじゃねえぞ……」
 何とも返答に困ってしまう。
「ふ、ナルシストってのとは意味が違うさ。俺が言ってるのは本能レベルでの話だ」
「は? ますますワケ分かんねえ……」
「お前はな、遼二。本能で自分がイイ男だと分かってるんだ。おそらくは何もしなくても、例えばお前さんが性格的にかなり嫌な悪人だとしてもだ。外見だけで言えばほぼ万人が――特に女たちからは興味を惹いてやまない存在だという自覚があるはずだ」
「ンだよ……。それじゃやっぱりナルシストの勘違い野郎じゃねえか……。俺ァそんな……」
「だがお前さんの興味の対象は紫月だけだ。紫月以外の――特に女たちから色恋の感情を持たれることが鬱陶しくて堪らねえのさ」
「……それはまあ、鬱陶しいってよりはどうしていいか分からねえって感じだが……。それとナルシストとどんな関係があるってんだ」
 さすがに少々ムクれ気味で口を尖らせてしまう。だがまったく構わずといった調子で僚一は続けた。
「お前の容姿を見ただけで大概の女たちは心を奪われる。だとしても既婚と分かれば普通はすぐに諦めてもらえることの方が多かろうが、中には美人で自分に自信を持っているタイプの女もいるだろう。美人に限らずとも欲しいものには行動力を惜しまないタイプの女もいる。嫁がいようが関係ない、あわよくば奪い取りたい、付き合って欲しい、あなたのことが好きだ――いつ何時そんなふうに言われやしないかとお前はひどく警戒して、女そのものを億劫に感じていることだろう。結果、口数は少なくなりわざと愛想を使わないよう心掛けてしまう。無意識にそうすることによって本能で女を近付けないようにしているのさ」
「……俺が――か? まあ愛想がねえってのは当たってるかも知れねえが……」
 事実紫月からもそう指摘されているので、愛想が足りないのはまあ認めるところだ。
「だがどんなにお前が防護壁を作ってもそれを突破してこようとする者もいる。三崎財閥の繭嬢や、この前の辰冨鞠愛嬢などがいい例だ。女たちはどんな手を使ってもお前に振り向いてもらおうと必死になる。お前は途端にどう対処していいか分からなくなるのさ」
「それは……まあその通りだが」
「周焔がお前のことをやさしいと言ったそうだな」
「ん? ああ……。さすがに耳が早えな」
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