極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「まあヤツはお前の親友だ。やわらかい言い方を選んだんだろうが、実際は優柔不断なヤツだと言いたかったのかも知れんぞ」
 鐘崎にとっては少々耳の痛いところだ。だが当たっているといえるだろう。
「……そうかもな。あいつも言ってた。ダメなものはダメだとはっきり断るべきとな。俺も頭じゃ分かっているんだが、実際そういった状況になるとどう断っていいか迷うのは事実だ。氷川に言わせりゃ女を傷つけずに断る方法なんざねえってことだが、実際面と向かうとな……」
 正直なところはっきりと断っても先日の鞠愛のように理解してくれないことも多い。僚一にも息子の言いたいところはよく分かっているようだ。
「そういうのが面倒だからついつい最初から関わること自体を敬遠しちまうんだ。それも本能レベルでの話だから、お前自身はいわば無意識だ。無愛想を装っているにもかかわらず女たちから恋情を抱かれると、どうしていいか分からなくなって挙句はうやむやのままズルズルになっちまうわけだ」
 確かにその通りだ。一字一句当たっている。
「けどよ、例えば親父にしろ氷川にしろイイ男だってんなら同じ類じゃねえか? 容姿がどうのと言うなら、氷川だって女にモテまくりそうなツラだし、その上経済力も備わってる。俺以上に方々から声が掛かっても不思議じゃねえ。だがヤツはどういうわけかそういうゴタゴタに巻き込まれる機会が少ねえ。そりゃ、以前にあいつの大学時代の後輩とかいう女が冰に文句をつけに来たこともあったから……皆無とは言わねえが、それでもきちんとケリはつけてる」
 確かにその後輩の女の件に巻き込まれた際にも、周ははっきりとした態度で女を切った。鐘崎からすれば少々辛辣といえるような厳しい対応を見せたのは事実だ。だが確かに妻帯者である以上、周のとった行動は正しいといえるのだろう。
 そんな友からの助言を受けて、今後もしもまたどこかの女から好意を抱かれるようなことがあった場合、きちんと断るつもりではいるが、穏便に理解してもらえるかどうかは自信がないと鐘崎は言った。
「もしもまたそんなことがあったとして、結局は俺一人では対処しきれずに親父や紫月に面倒を掛けちまうようにも思う。つくづく情けねえ思いでいっぱいだ……」
「そうだな。今のままのお前ではそうなるかも知れんな」
 しれっとそんなことを言う父親を戸惑ったように見つめてしまった。
「俺には何が足りねえってんだ……」
 分かっているなら教えて欲しい。真顔で視線を翳らす様子からは切実な思いがひしひしと滲み出ている。
「そうさな、一度その警戒心を取っ払ってみたらどうだ」
「……え?」
「何度も言うが、お前にとっちゃ本能レベルでの警戒心だからな。意識的に取っ払うのは難しいかも知れんが、逆療法ってやつさ。万が一にも興味を持たれたら困るとか、惚れられたらどうしようなんて思わずに、逆に女をナンパするくれえの気持ちで接してみたらどうだ? 案外女の方が警戒して逃げていくかも知れねえぞ」
 僚一曰く、仮にこの先々で出会う女が鐘崎を気に入ったとして、確かにイイ男だと思っても、もしかしたらいいように遊ばれるだけかも知れないからと、女の方から一歩引いてくれるかも知れないと言うのだ。
「ま、そいつぁ半分冗談だがな。要はあまり警戒せずにいられるようになれということだ。無理に愛想を振り撒けとは言わんが、普通に接していながら惚れられたんなら、その時は真摯に向き合って正直な気持ちを伝えればいい。簡単なことさ。惚れられるか惚れられないかも分からねえ内から、過分な防護壁を纏う必要はねえってことだ」
「……防護壁」
「人間の心理なんてのは天邪鬼にできてるもんだ。お前が高く高く防護壁を作れば作るほど、それを乗り越えたいという思いを焚き付けちまうってこともあるんだと思っとくこった」
 僚一の言葉に鐘崎は目から鱗が落ちる思いに陥ってしまった。
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