極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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「そうね……猛アタックは……しない。多分しないわ」
 これには周のみならず、当の鐘崎もどうしてだといったように目をパチクリとさせてしまったほどだ。その理由を聞いた一同は更に驚かされてしまった。
「確かに遼二さんは理想の男性だわ。男前だし、側にいたらドキドキするくらいハンサムだし、こんな人が彼氏だったら周囲にも鼻高々よ。片想いの内は何がなんでも手に入れたいと思うでしょうね。でももしも……本当に手に入ってしまったら案外その情熱が一気に冷めてしまうような気がするの」
 それはなんとも驚きの見解だ。
「例えば遼二さんと会って一目惚れしたとするわね。彼の方も満更じゃなさそうだと感じれば、とにかく猛アタックして手に入れようとする。でも実際手に入ってしまったら、急に現実が見えるようになる。例えば遼二さんはすごく男前だけど人形じゃないわ。こんな言い方したら下衆な女と思われるでしょうけど、人間だからオナラもするしイビキもかくでしょう。そういった現実を目の当たりにした時、それが普通の男性なら当然と思えるけど、こんな素敵な人が――って幻滅感がすごいと思うの。見た目が素敵過ぎるから勝手に理想化するのよね」
 さすがに心理学を学んだというだけあって、一般的な見方よりも少々奥深い様子だ。周のみならず皆はメビィの話に釘付けにさせられてしまった。
「アタシも例の作戦の時に思ったけど、遼二さんは自分がイイ男だっていうのを自覚しているんだろうなって感じたわ。おそらくこれまでにもたくさんの女性からアプローチを受けてきて、その回数が多すぎる為にいちいち断ることが面倒に感じているんじゃないかしらって思った。表向きは普通に接してくれているんだけど、どことなく距離を置かれてるっていうか敬遠されてるっていうか――誰に対してもある一定の壁のようなものを持っていて、ここから先は近付いてくれるなっていうオーラを放ってるっていうのかしら。多分無意識なんでしょうけど、これはなかなか手強いぞって思ったわ」
 大概はそんな雰囲気の男に会えば高飛車で嫌なヤツだと思い、ちょっと顔がいいからって気取ってるんじゃないわよ――と、自ら離れていく女も多いだろうと言う。だが逆にそんな男だからこそ振り向かせてみたいと躍起になるタイプも中にはいるのも現実だ。
「まさにアタシはそのタイプだったわね。こうなったら何がなんでもこの男を落としてやろうって思ったわ。特に遼二さんには男性の連れ合い――紫月さん――がいたし、それなら尚更女の魅力を教えてあげるわって気になったわね」
 メビィは苦笑ながらも先を続けた。
「アタシの場合は仕事がらみだったし結局失敗しちゃったけど、これがもし単なる恋心で失恋ってことになったら、女としては逆恨みの感情が芽生えても不思議じゃないわ。だって好きになってから何となく距離を置かれてるのかなって感じながらも、それでも精一杯自分を奮い立たせて少しでも遼二さんに振り向いてもらおうって努力してきた女がよ? まあ努力って言い方が合ってるかは別として、自分はあまり好かれてないんじゃないかと不安になりながらも何とか気に入ってもらおうと頑張ってきたのに、結局失恋――なんて結果になったら、それまでの想いがペシャンコにされてしまうような気になるでしょう? もちろん遼二さんは何ら悪くないし、恋が叶う叶わないなんていうのは誰の責任でもないんだけど、女からしたら自分を曲げてまであなたを好きだって言ってあげてるのに――って、だんだん恨みの気持ちに変わっていっちゃうこともあると思うのよ。この前紫月さんを襲ったっていう女性も遼二さんへの想いが叶わなかったことへの逆恨みだったんでしょう?」
 メビィの方からその話が出たところで、周はいよいよ核心へと振った。
「やはりアンタもそう感じるか。実はな、この鐘崎はどういうわけか厄介な相手に惚れられることが多くてな。アンタ、心理学をやってたというなら、どうすりゃそういうのを回避できるかってな方法を知らねえか?」
 客観的な目線でアドバイスがあれば聞いてみたいというその言葉に、皆はなぜ先程から周がわざわざこんなことを言い出したのかが理解できたようであった。鐘崎の為に少しでも彼が楽になれる方法があればと思ってのことだったのだ。
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