極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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 メビィもまた、周が何を知りたがっているのかが理解できたようだ。この前のような事件に発展させない為には、鐘崎が今後どのように振る舞っていけばいいのかということが訊きたいのだろう。
「なるほど、そういうことね。今後もしもまた厄介な女に好かれちゃった場合、はっきり断った挙句逆恨みを買わないようにするにはどうしたらいいかってことでしょう?」
 メビィは少し考えた後、彼女なりに思ったことを話してくれた。
「そうね、まずは遼二さんが無意識の内に持っている警戒心の壁を取り払うっていうことかしら」
「警戒心の壁――だ?」
 周が訊く。
「ええ、そう。さっきも言ったけど、ここから先は触れてくれるなーっていうオーラみたいなの? 俺に惚れるなよ、惚れられても困るぞ、そうだ――だったら最初からあまり愛想を使わないでおこう。必要以外は喋らないでおこう、相手に誤解をさせない為にもあまり笑わないでおこう、とかいう目に見えない壁のようなものを持たないようにすることって言ったら分かりやすいかしら?」
 それを聞いて一番驚いたのは鐘崎だった。何故なら同じことを父の僚一からも言われていたからだ。心理学の心得があるというメビィがそう指摘するのだから、やはり自分でも気付かない内に他人と距離を取ろうとする思いが働いているのかも知れない――と、そう思った。それにしても既にそういったことを見抜いていた父の僚一はさすがだと思わされる。
「多分、遼二さんにとっては無意識なんだろうと思うのよ。だから警戒心を取っ払えって言われても、何をどうすればいいのか分からないって悩むかも知れないけど――。だったらこう考えてみて? 今アタシたちはたくさんの人の目につくオープンカフェでお茶をしているわね。道ゆく人は『あら、イイ男の集団がいる!』って思ってアタシたちを見ていく。でも遼二さん、いつもよりも気が楽っていうか、ここではあまり人の目が気にならないでいられるんじゃないかしら?」
 メビィに聞かれて、鐘崎も確かにその通りだと思ったようだ。
「……そう言われてみれば……そうだな。全く意識していなかったが、普段よりは気持ちが軽い――というか、今言われるまで人の目が気にならなかった気がするな」
 指摘されて初めて気がついた思いだ。――つまり、今のこの状態こそが以前父の僚一が指摘した心に高い壁を持たないという感覚なわけだろう。直後に続けられたメビィの言葉でその思いは更に具体的となった。
「じゃあここが東京だったらどう? あなたはきっともう少し居心地が悪いと感じるんじゃないかしら?」
 言われてみれば確かにその通りかも知れない。鐘崎は驚いたようにしながらもその通りだと言ってコクリとうなずいた。
「確かに……ここだと気が楽っていうのはあるな。日本にいる時はどうしてもピリピリしちまってると思う」
「その原因は、東京だったら家も近い。万が一誰かに興味を持たれた場合、いつまた何処で偶然に会ってしまうかも知れない、下手をすると後をつけられて家を突き止められるかも知れない、そういった警戒心が湧くからなのよ。遼二さんにとっては自分がイイ男であるっていう自覚が強いが故に、付き纏われたらどうしようっていう警戒心がまず先に立ってしまうんじゃない? もちろん無意識だから遼二さんにはどうすることもできない自然現象のようなものなんだけど――」
「――実は同じことを親父に指摘されてな。俺が辰冨さんの娘の件でどうしたらいいかと思い詰めてた時だった。必要以上に警戒心の壁を高くするなと言われたが、実際はどうすりゃいいのかよく分からずじまいだったが――今のメビィの話を聞いて何となく形が見えたというか……具体的にどうしたらいいのかというきっかけが掴めそうな気がしてきた……」
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