極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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 彼の部屋まではメビィが案内してくれることとなった。
「ところで、少年の母親についてだが――今は別居しているそうだな」
 メビィもまた、ああ――それはと言って経緯を話してくれた。
「実はあの子のご両親は数年前に離縁されているの」
「離縁だって? じゃああの子供はそのことを知らねえってわけか?」
「ええ……。ご事情がご事情なんで、子涵君には本当のことを話していないそうよ」
 それというのは離縁の原因が子涵の母親の浮気だったからだそうだ。
「浮気?」
「ええ。他所に男の人を作って出ていってしまったそうなの」
 相手の男というのは以前亭主の社に勤めていた者だったらしいが、離縁の際に彼もまた退社したということだ。
「なんでもえらく若い社員だったそうだけど。CEOと奥様は元々歳の離れたご夫婦でね、奥様は二十歳になる前に嫁いでいらしたらしいんだけど、お忙しいご主人の側で退屈されていたとか」
 結婚当時、子涵の父親は既に四十を迎えていて、親子ほど歳の違うことから、周囲からの波風も厳しかったようだ。
「財力という面では言うことなしだから、奥様もそれで結婚を決めたんでしょうけど、いざ実生活に入ってみると理想とは違ったのかも知れないわね。お子さんが生まれて数年はそちらに手を取られて何とか夫婦生活を続けていられたようだけど、その子が小学校に上がる頃にはご夫婦の仲が冷え切っていたそうよ。まあ今はCEOもいいお相手がいらっしゃるようだけれど、さすがに子涵君のことも考えてか再婚には至っていないらしいわ」
「なるほど――そういうことだったのか」
 数年前に離縁したということは、子涵の父親にとってもそろそろ新しい人生を考えても不思議はないといったところか。
「もしかしてその新しい相手というのは彼の秘書の女性か?」
「まあ、驚いた! もうそんなところまでご存知だったの?」
 さすがに鐘崎組の情報網はすごいわねとメビィは感心していたが、実際は子涵少年に聞いただけだから手柄というほどではない。
「いや、実はあの坊主が二人の仲を気にしていてな」
「まあ! 子涵君が?」
「秘書のおばさんがお父さんに嫌なことをすると――な。父親が母親以外の女性と親密な関係にあるとすれば、ガキの目から見ても何となく不穏なものに映るのかも知れんな」
 それで、その秘書というのはどういった人物なのだと鐘崎は訊いた。
「穏やかでやさしい方よ。歳はCEOより二つほど上らしいわ。元々はエンジニアとして開発の方の仕事をされていたようだけど、ご夫婦が離縁なさってからしばらくしてCEOから是非にと言われて秘書になられたんだとか」
「なるほど。仕事の面でも互いに理解し合える間柄だということか――」
「ええ。とても頭の切れる素晴らしいエンジニアだとかで、仕事の面で随分とCEOが頼りになさっていたとか。奥様が出て行かれてから何かにつけてたいへんだったCEOを公私共に支えていらしたそうよ。アタシたちにもとても丁寧に接してくださるし、周囲の方からお人柄も素晴らしいと評判だわね。傍から見ていてもCEOとはお似合いといった印象ね」
 なるほど。彼らにとっては理想的な相手なのだろうが、まだ幼い子涵には複雑にしか感じられないといったところだろう。
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