極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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 その周邸では子涵ズーハンが逸る思いで鐘崎からの報告を待っていた。
「遼兄ちゃん! お父さんは!? どうだった?」
 玄関口にその姿を見ると同時に飛んで駆け寄る。
「ああ、子涵ズーハン。お父さんとお会いしてお前さんの手紙もちゃんと渡してきた。お父さんは喜んでいたぞ」
「ほんと?」
「ああ、本当だ」
「そう……。それでその……おばさんとも会った?」
 どうにも秘書の女性のことが気になってならない様子だ。
「ああ、おばさんとも会ったぞ」
「お父さんをいじめてなかった……?」
「ああ。いじめるどころか、あのおばさんはお前のお父さんのことも、それにお前のこともとても大事に思っている――俺にはそう感じられた」
 鐘崎が子涵ズーハンの目線まで屈みながらそう言うも、聞いた瞬間にキュっと眉をひそめては小さな拳を握り締めてしまった。

「嘘つき……」

 肩を震わせながらポツリと小さくそうつぶやいた。
「――子涵ズーハン?」
「嘘つきッ! お父さんを守ってくれるって言ったくせにッ! お前なんか……嫌いだッ!」
「おい、子涵ズーハン……!」
 子涵ズーハンは駆け出すと、逃げるようにして玄関を後にした。その勢いに、紫月や冰らも驚いて顔を見合わせる。
「おいおい……いったいどうしたってんだ?」
子涵ズーハン君……?」
 二人が声を掛けるも、子涵ズーハンは部屋の隅のカーテンの陰に隠れて閉じこもってしまった。

 その後、ひとまずは子涵ズーハンを寝室へと連れていき、彼のことは周の継母に任せることにして、鐘崎はダイニングスペースで皆に事情を打ち明けた。子涵の両親が既に離婚していることや、秘書の女性との関係などである。
「なーる、そういうことか……」
「それで子涵ズーハン君は鐘崎さんに当たっちゃったんですね」
 紫月も冰も気の毒にといった表情で肩を落とす。
「しかしなぁ……親父さんが子涵ズーハンに本当のことを打ち明けてねえわけだべ?」
 だとすれば自分たちの口から暴露するわけにもいかない。それ以前にそんな酷なことを子供に伝えるのも憚られるところだ。
「正直なところ、俺が会った印象ではあの秘書の女性は人格も備わった大人に見えた。メビィらも言っていたが、実際いい人のようだ。俺のような第三者から見ても、実の母親以上にあの坊主のことを大事にしてくれそうには思えるがな――」
「……っつってもなぁ、どう言や子涵ズーハンが納得するかっつーと、難しいところだべな」
「まあそれについては俺たちは部外者だ。あの坊主の親父さんが直に向き合うしかなかろうな。母親が男を作って出て行っちまったってのは俺にも言えることだが、俺の場合は物心つく前のことだったしな」
 鐘崎とて似た境遇ではあるものの、赤ん坊の時分だったから感覚としては子涵とはまた違うのだろう。
「そっか……。子涵ズーハン君がもう少し大人になれば理解できるのかな……。早くそんな時がくるといいですね」
 鐘崎と紫月、冰が三人で溜め息がちでいるところへ周が穏やかに口を挟んだ。
「いずれにせよ真実を打ち明けるしかあるまいな。あの坊主の親父さんとやらがこの先その秘書と一緒になろうがならまいが、母親が出て行っちまった事実については本当のことを告げるしかなかろう。親父さんにとっては胸の痛い話だろうが、いくらガキだといってもいつまでも欺くわけにはいくまい」
 確かにその通りだが、実際は難しいことに変わりないだろう。
「ガキにとっても酷なことに違いはねえが、真実を知ることで救われることもある。いつまでもうやむやにしてガキを不安にさせれば、かえって気の毒な思いをさせねえとも限らんからな」
 それよりも今は敵から彼らを守ることに集中しようと周は言った。
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