極道恋事情

一園木蓮

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春遠からじ

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「俺はCEO――つまりカネの側付きということで同行するとしよう。李と曹さんは車に残って俺たちの会話を傍受し、応援の体制を敷いてくれ」
 特に鐘崎らがシステムへアクセスする際に、さも本当に作動しているように遠隔操作を行ってもらうことにする。周の配慮に、心強いと言って鐘崎も頭を下げた。
「すまねえな、氷川。恩にきるぜ!」
「構わん。俺が一緒の方がお前もやり易かろう」
「ああ、助かる。お前となら何かあっても表情だけで互いの思っていることがある程度分かるだろうからな」
 長年の付き合いの中で言葉を交わせない状況であっても、視線の動きだけで互いの胸の内が何となく読み合えるからだ。
「とはいえ一通りの手順は決めておいた方が良かろう。まずは相手にシステムが本物だと思わせにゃならん。カネが持参したパソコンからアクセスする手順だが――」
「うむ、そうだな。こういうのはどうだ? 俺と秘書の彼女と――それから子涵ズーハンの虹彩と指紋が必要だと主張するんだ。そうすればひとまずヤツらの手から子涵ズーハンだけでも取り返せる」
「それは名案ね!」
 ナイスアイデアだと言ってメビィも瞳を輝かせる。
「でしたら私たちの方で鐘崎さんの指示通りに鍵が開いていくように操作しましょう」
 李と曹でそれを引き受けてくれるそうだ。
「まずは子涵ズーハン少年の虹彩、次に秘書の彼女の虹彩、最後に俺の虹彩で第一の鍵が開くということにしよう。その次は子涵の指紋、彼女の指紋、そして俺の指紋で第二の鍵が開く。最後は俺がパスワードを入力してアクセスが可能となる――これでどうだ?」
「いいですね。ではそれに合わせてこちらからの遠隔操作を行います。ひとつひとつカギが開いていく様子を画面上ででっち上げましょう」
「なるべく時間を掛けて操作をするから、その間に応援部隊に裏口からの侵入を果たしてもらえればと思う」
「承知しました。侵入が叶った時点で画面にメッセージを表示するようにします。椿の花で如何でしょう」
 画面に花が表示されたとしても敵にとっては意味が分からないだろうし、鍵が開く段階のひとつとしか映らないだろう。
「助かる。では椿の花を確認したら、応援部隊が侵入を果たせたという合図としよう」
「鐘崎さんはそれを確認後に最後のパスワードを入力してください。その際、画面を敵に向けていただき、鍵が開いたと同時に画面が閃光を放ってクラッシュするように仕込みます。閃光で敵の隙を突けるでしょうからその場で確保してください」
「了解した。頼んだぞ李さん」
「お任せください」
 劉と源次郎は建物の裏口などから潜入できる箇所を探ってくれるという。周の兄が曹来の他にも側近たちを幾人も貸してくれたので、援護としては手厚い体制が敷けることが有り難かった。



◇    ◇    ◇



 白泥付近の現場に着いたのは昼前だったが、分厚い雲間に覆われて今にも土砂降りになりそうな天候のせいでか辺りは薄暗く人影も見当たらなかった。
「GPSの反応があったのはおそらくこの辺りで間違いないのですが――」
 源次郎が引き続き探査を進めていたものの、あれ以来反応はまったく見られなくなってしまったようだ。
「――とすれば、今は建物の地下室あたりに囚われているか、通信を阻害する機器を所持しているのかも知れん」
 そんな話をしながら山中を走っていると、雑木林の中に埋もれるようにして建っている邸が見つかった。と同時に微弱ながらも手紙に取り付けたGPSにも反応が蘇った。
「反応がきました! おそらくここで間違いないかと」
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