966 / 1,200
倒産の罠
3
しおりを挟む
ひと月前、香港――。
「こちらの準備は整っている。既に敵の懐に我がファミリー第一側近の曹来を潜り込ませることに成功した。ヤツが上手く立ち回ってくれたお陰で、敵の上層部にも覚えがめでたい様子だ」
周の兄である風が緊張の面持ちでそう報告する。ここは香港の裏社会を仕切る周ファミリーの数ある拠点の中でも、最高峰といわれる極秘のヤサであった。
顔を揃えているのは頭領の周隼と長男の周風、次男坊である周焔、それに鐘崎組長の僚一、つまり鐘崎の父だ。むろんのこと息子の鐘崎遼二も一緒である。
その他に鐘崎組番頭の源次郎と、周の側近である李と劉、日本の警視庁捜査一課に所属する丹羽修司の姿もあった。総勢九人の男たちがファミリー中枢の限られた幹部しか知り得ない極秘部屋に集まって真剣な表情でいる。
ここは周隼の本宅から少し離れた所にある地下施設の一室だ。本宅からは秘密の太い地下通路で繋がっていて、車での行き来も可能という広大な造りになっている。施設の真上には送電を管理する電力所を装った建物があって、感電などの危険を伴うという理由から関係者以外は立ち入りが禁じられているといった具合であった。もちろん電力所というのは周隼の管理下にある会社である。本来の業務も少なからず行われてはいるが、実質は隠れ蓑の要素の方が大きい、とまあそんな施設であった。
裏社会を仕切る男たち、そして警察幹部までが顔を揃えての異色ともいえる極秘会議だ。話し合われている内容も重いものであった。
「昨今、このアジアを中心に次々と中小企業が詐欺集団によって乗っ取られるという異様事態が後を絶たない。被害件数の点からすれば日本国内が断トツに多いとのことだが、ここ香港でも二、三年の間にいくつかの企業が倒産に追いやられているのは事実だ」
皇帝の色とされる黄色の中華服姿で頭領の周隼が言う。まあ彼の字が黄龍なので、普段から選ぶ色は黄色なわけだが、男前の顔立ちによくよく映えていて、まるで映画の世界に迷い込んでしまったかのような印象を受ける。長男の周風も同じく字に合わせた全身漆黒の中華服がよく似合っていて、その出立ちだけを目にしても圧倒されるような雰囲気の中、警視庁から来た丹羽が珍しくも緊張気味に背筋を正していた。
それというのも、今この面々がこんなところで顔を揃えているのは、そもそもこの丹羽に要因があるからだった。
ここ香港で詐欺集団による企業乗っ取りが問題視され始めた少し後のことだ。一年ほど遅れて日本や台湾でも同じ手口が横行し始めた。当初、香港や台湾の企業が次々乗っ取られては倒産に追い込まれるというニュースが話題になったものの、その波は瞬く間に日本へと広がり、今ではどこの国よりもその数が増え続けているといった事態に、いよいよ黙って見過ごすわけにはいかないと丹羽から鐘崎組へと助力の要請がいったというのが発端だった。
「こちらの準備は整っている。既に敵の懐に我がファミリー第一側近の曹来を潜り込ませることに成功した。ヤツが上手く立ち回ってくれたお陰で、敵の上層部にも覚えがめでたい様子だ」
周の兄である風が緊張の面持ちでそう報告する。ここは香港の裏社会を仕切る周ファミリーの数ある拠点の中でも、最高峰といわれる極秘のヤサであった。
顔を揃えているのは頭領の周隼と長男の周風、次男坊である周焔、それに鐘崎組長の僚一、つまり鐘崎の父だ。むろんのこと息子の鐘崎遼二も一緒である。
その他に鐘崎組番頭の源次郎と、周の側近である李と劉、日本の警視庁捜査一課に所属する丹羽修司の姿もあった。総勢九人の男たちがファミリー中枢の限られた幹部しか知り得ない極秘部屋に集まって真剣な表情でいる。
ここは周隼の本宅から少し離れた所にある地下施設の一室だ。本宅からは秘密の太い地下通路で繋がっていて、車での行き来も可能という広大な造りになっている。施設の真上には送電を管理する電力所を装った建物があって、感電などの危険を伴うという理由から関係者以外は立ち入りが禁じられているといった具合であった。もちろん電力所というのは周隼の管理下にある会社である。本来の業務も少なからず行われてはいるが、実質は隠れ蓑の要素の方が大きい、とまあそんな施設であった。
裏社会を仕切る男たち、そして警察幹部までが顔を揃えての異色ともいえる極秘会議だ。話し合われている内容も重いものであった。
「昨今、このアジアを中心に次々と中小企業が詐欺集団によって乗っ取られるという異様事態が後を絶たない。被害件数の点からすれば日本国内が断トツに多いとのことだが、ここ香港でも二、三年の間にいくつかの企業が倒産に追いやられているのは事実だ」
皇帝の色とされる黄色の中華服姿で頭領の周隼が言う。まあ彼の字が黄龍なので、普段から選ぶ色は黄色なわけだが、男前の顔立ちによくよく映えていて、まるで映画の世界に迷い込んでしまったかのような印象を受ける。長男の周風も同じく字に合わせた全身漆黒の中華服がよく似合っていて、その出立ちだけを目にしても圧倒されるような雰囲気の中、警視庁から来た丹羽が珍しくも緊張気味に背筋を正していた。
それというのも、今この面々がこんなところで顔を揃えているのは、そもそもこの丹羽に要因があるからだった。
ここ香港で詐欺集団による企業乗っ取りが問題視され始めた少し後のことだ。一年ほど遅れて日本や台湾でも同じ手口が横行し始めた。当初、香港や台湾の企業が次々乗っ取られては倒産に追い込まれるというニュースが話題になったものの、その波は瞬く間に日本へと広がり、今ではどこの国よりもその数が増え続けているといった事態に、いよいよ黙って見過ごすわけにはいかないと丹羽から鐘崎組へと助力の要請がいったというのが発端だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
785
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる