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倒産の罠
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川崎、鐘崎組事務所――。
「氷川の会社が倒産!? は、はは……なんの冗談だよ……」
エイプリルフールでもないのに笑えねえ、と紫月が片眉をヒクつかせながら蒼白となっている。
「冗談なんかじゃねえんだ。お前も耳にしたことがあるだろう? 昨今国際的に問題になっている詐欺集団のニュースだ。氷川の社も遂にターゲットにされたというわけだ」
「ま……さか。あの氷川が……ンなチンケなヤツらに引っ掛かるわきゃねって」
「チンケで片付けちまえりゃ苦労はねえんだがな。日本国内だけじゃなく、アジアを中心に今や世界各国で横行している由々しき事態だ。このままいけば、遅かれ早かれインターポールが動き出すことになろう」
「マジかよ……」
さすがに認めざるを得ないということか。
「んで、氷川たちはこれからどうなっちまうってんだ?」
「当面の間は氷川たちにはうちに来てもらうことになった。まあ早急にアパートを探すと言っていたから、長くても数日だろう」
「そんな……! アパートなんざ探さなくたって、ここにずっと居りゃいいじゃんかよ! なんなら俺ン実家の方だっていいんだし!」
道場には父の飛燕と手伝いの綾乃木が住んでいるだけだし、部屋は充分に余っていると紫月は必死だ。
「むろんそう伝えはしたがな。氷川には氷川のプライドってもんがあるんだろう」
いかに親友といえど、そこまで世話になるのは申し訳ないという男としての気持ちは理解できないでもない。
「それで冰君は? 冰君も……もちろん一緒に来てくれるんだろ?」
そんなことは聞かずとも当然だと思いながらも、これまでの生活とは百八十度違う環境になるわけだ。汐留での豪勢な生活からから比べれば、天と地といっても過言ではないことくらい想像がつく。そんなことくらいであの二人の愛情が揺るぐとは思えないが、心配せずにもいられないというのも実のところなのだ。
「もちろん冰も一緒だ。ヤツは氷川と一緒にいられるなら何処だって構わないと言ったそうだ」
それどころか、自分たちのことよりも社員たちの今後の生活のことの方を心配していたという。
「そっか……。良かった。安心したぜ……」
実際には安心どころではないのだが、紫月にとっては冰が身ひとつも同然になる周を見捨てずについて来てくれるということが何よりの安堵と思えるのだった。
「李さんと劉さんは社に残り、新しい経営陣の下でこれまで通り勤めるそうだ。氷川とてこのまま黙っているわけもないからな。今後は社を取り戻す為に画策することになる」
その時の為にも李らには残ってもらうことにしたのだそうだ。
「そっか……。氷川のことだ、なんとしても社を取り戻す為に動くんだろうが……。とにかく俺は少しでも冰君たちの力になれるよう、できることはなんでもするから!」
「ああ、俺もできる限り動く。家に帰れない日も多くなろう。お前にも苦労を掛けるが、よろしく頼む」
「もちよ! マジでなんでもするぜ!」
紫月は早速周らが住めるようにと客用の空き部屋の準備に取り掛かった。
すまねえ、紫月――。
お前や冰にさえ本当のことを明かせずに気苦労を掛けることを許して欲しい。だが、これは俺たちの賭けでもあるんだ。
いつかすべてが片付いたら、この借りは返すぜ。俺と氷川の持てるすべてでお前らを笑顔にしてやりたい。
だからそれまで耐えてくれ!
周に違わず、鐘崎にとってもまた同様――極道の男たちにとって厳しく荒れる大海原に挑む覚悟の瞬間が切って落とされたのだった。
「氷川の会社が倒産!? は、はは……なんの冗談だよ……」
エイプリルフールでもないのに笑えねえ、と紫月が片眉をヒクつかせながら蒼白となっている。
「冗談なんかじゃねえんだ。お前も耳にしたことがあるだろう? 昨今国際的に問題になっている詐欺集団のニュースだ。氷川の社も遂にターゲットにされたというわけだ」
「ま……さか。あの氷川が……ンなチンケなヤツらに引っ掛かるわきゃねって」
「チンケで片付けちまえりゃ苦労はねえんだがな。日本国内だけじゃなく、アジアを中心に今や世界各国で横行している由々しき事態だ。このままいけば、遅かれ早かれインターポールが動き出すことになろう」
「マジかよ……」
さすがに認めざるを得ないということか。
「んで、氷川たちはこれからどうなっちまうってんだ?」
「当面の間は氷川たちにはうちに来てもらうことになった。まあ早急にアパートを探すと言っていたから、長くても数日だろう」
「そんな……! アパートなんざ探さなくたって、ここにずっと居りゃいいじゃんかよ! なんなら俺ン実家の方だっていいんだし!」
道場には父の飛燕と手伝いの綾乃木が住んでいるだけだし、部屋は充分に余っていると紫月は必死だ。
「むろんそう伝えはしたがな。氷川には氷川のプライドってもんがあるんだろう」
いかに親友といえど、そこまで世話になるのは申し訳ないという男としての気持ちは理解できないでもない。
「それで冰君は? 冰君も……もちろん一緒に来てくれるんだろ?」
そんなことは聞かずとも当然だと思いながらも、これまでの生活とは百八十度違う環境になるわけだ。汐留での豪勢な生活からから比べれば、天と地といっても過言ではないことくらい想像がつく。そんなことくらいであの二人の愛情が揺るぐとは思えないが、心配せずにもいられないというのも実のところなのだ。
「もちろん冰も一緒だ。ヤツは氷川と一緒にいられるなら何処だって構わないと言ったそうだ」
それどころか、自分たちのことよりも社員たちの今後の生活のことの方を心配していたという。
「そっか……。良かった。安心したぜ……」
実際には安心どころではないのだが、紫月にとっては冰が身ひとつも同然になる周を見捨てずについて来てくれるということが何よりの安堵と思えるのだった。
「李さんと劉さんは社に残り、新しい経営陣の下でこれまで通り勤めるそうだ。氷川とてこのまま黙っているわけもないからな。今後は社を取り戻す為に画策することになる」
その時の為にも李らには残ってもらうことにしたのだそうだ。
「そっか……。氷川のことだ、なんとしても社を取り戻す為に動くんだろうが……。とにかく俺は少しでも冰君たちの力になれるよう、できることはなんでもするから!」
「ああ、俺もできる限り動く。家に帰れない日も多くなろう。お前にも苦労を掛けるが、よろしく頼む」
「もちよ! マジでなんでもするぜ!」
紫月は早速周らが住めるようにと客用の空き部屋の準備に取り掛かった。
すまねえ、紫月――。
お前や冰にさえ本当のことを明かせずに気苦労を掛けることを許して欲しい。だが、これは俺たちの賭けでもあるんだ。
いつかすべてが片付いたら、この借りは返すぜ。俺と氷川の持てるすべてでお前らを笑顔にしてやりたい。
だからそれまで耐えてくれ!
周に違わず、鐘崎にとってもまた同様――極道の男たちにとって厳しく荒れる大海原に挑む覚悟の瞬間が切って落とされたのだった。
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