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倒産の罠
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「真田さん、お風呂お先にどうぞー」
冰が荷解きをしながら明るい笑顔で言う。
「とんでもありません! 坊っちゃまと冰さんでお先にお入りください!」
真田は恐縮しているが、冰は朗らかに笑った。
「俺はもう少し荷物の整理があるんで、ほんとお先に入っちゃってください。出たらお茶にしましょう」
周もそうしろと言うので、真田も二人の厚意に甘えることとなった。その間、冰は買ってきた物の荷解きに精を出す。
「白龍、お布団出すの手伝ってー。ちょっと大きくてさ」
「ああ。割合デカいのを買っちまったからな」
床に敷いて寝るタイプのものなので、布団は大きめのキングサイズを選んだのだ。敷いてみるとすっかり部屋を埋め尽くす勢いである。
「わは! これだけで部屋が埋まっちゃった」
周は体格も大きいので、どうせ朝には畳むのだしということで、せめてゆっくり眠れるようにと冰がキングサイズを希望したのだ。
「ふかふかだね! これならよく眠れそう」
冰は早速寝転んで笑顔を見せているが、周からすればやはり不憫な思いをさせていることに胸が痛んでしまう。
「冰、すまねえな。苦労を掛ける……」
言葉通り申し訳なさそうに視線を翳らせた周の手を取ると、穏やかに微笑みながら冰は言った。
「ううん、苦労だなんて思わないよ。俺は白龍と一緒にいられることが何よりの幸せだもん。そりゃ確かに汐留のお邸と比べちゃえば小さなお家だけどさ。俺にとっては今までが豪勢過ぎただけで、本当だったら俺、日本に来て一人で暮らしてたらもっと小さい家に住んだと思うし、きっと不安だらけだったよ。今は真田さんと白龍が一緒なんだもん。それこそが何よりの贅沢だよ!」
「冰……」
「それに、紫月さんたちが就職先までお世話をしてくれたんだもの。職を探す手間がないだけですごく有り難いよ!」
思えば冰は育ての親である黄老人が亡くなってから単身で日本にやって来たわけで、周に会ってこれまでの礼を述べた後は職探しをする心づもりでいたわけだ。その時の不安は相当に大きいものだったという。だから就職先が決まっていることの有り難さが身に染みるのだそうだ。
「俺、ちゃんと働いて節約もするから! 黄のじいちゃんに家計のやりくりとかはしっかり教えてもらったもの。任せといて。それにさ、この生活に慣れたらいつかまた三人で住める家を買うこともできるじゃない?」
今はとにかく地道に働いて、少し余裕ができたら将来の夢も描けると言ってくれる。しかも夫婦二人で住むのではなく、当然のように真田も一緒にと思い描いていてくれる。周にはそんなあたたかい気持ちが身に染みるようだった。
「白龍は明日からもう出勤でしょ? 今日は早めに寝なきゃね」
「ああ。カネがこの近所の工事現場を紹介してくれたからな。通勤時間が掛からねえのが有り難い」
「うん、近くで良かった。俺の方も歩いて行ける図書館で働かせてもらえるって。明日は紫月さんが一緒に顔合わせに行ってくれることになっててさ。仕事は明後日からだから、白龍が帰って来る頃には晩御飯作って待ってるね。お昼は食材買って来たからお弁当ね。真田さんに教わって俺も何か一品くらい作れたらいいな」
周は道路工事の現場で働くので、冰としてはなるべく腹の足しになる弁当の算段なども思い描いているようだ。
「――冰」
クイと肩を抱かれ、大きな懐の中へと抱き締められた。
「――すまねえ」
「白龍……。ううん、そんなこと言わないで。俺、本当にあなたと真田さんといられれば幸せだもん。三人で楽しく暮らそ!」
「ああ……。ああ、そうだな」
腕の中の黒髪に口付けながら、周はいつまでもこの温かいぬくもりを離したくないと胸を熱くしたのだった。
冰が荷解きをしながら明るい笑顔で言う。
「とんでもありません! 坊っちゃまと冰さんでお先にお入りください!」
真田は恐縮しているが、冰は朗らかに笑った。
「俺はもう少し荷物の整理があるんで、ほんとお先に入っちゃってください。出たらお茶にしましょう」
周もそうしろと言うので、真田も二人の厚意に甘えることとなった。その間、冰は買ってきた物の荷解きに精を出す。
「白龍、お布団出すの手伝ってー。ちょっと大きくてさ」
「ああ。割合デカいのを買っちまったからな」
床に敷いて寝るタイプのものなので、布団は大きめのキングサイズを選んだのだ。敷いてみるとすっかり部屋を埋め尽くす勢いである。
「わは! これだけで部屋が埋まっちゃった」
周は体格も大きいので、どうせ朝には畳むのだしということで、せめてゆっくり眠れるようにと冰がキングサイズを希望したのだ。
「ふかふかだね! これならよく眠れそう」
冰は早速寝転んで笑顔を見せているが、周からすればやはり不憫な思いをさせていることに胸が痛んでしまう。
「冰、すまねえな。苦労を掛ける……」
言葉通り申し訳なさそうに視線を翳らせた周の手を取ると、穏やかに微笑みながら冰は言った。
「ううん、苦労だなんて思わないよ。俺は白龍と一緒にいられることが何よりの幸せだもん。そりゃ確かに汐留のお邸と比べちゃえば小さなお家だけどさ。俺にとっては今までが豪勢過ぎただけで、本当だったら俺、日本に来て一人で暮らしてたらもっと小さい家に住んだと思うし、きっと不安だらけだったよ。今は真田さんと白龍が一緒なんだもん。それこそが何よりの贅沢だよ!」
「冰……」
「それに、紫月さんたちが就職先までお世話をしてくれたんだもの。職を探す手間がないだけですごく有り難いよ!」
思えば冰は育ての親である黄老人が亡くなってから単身で日本にやって来たわけで、周に会ってこれまでの礼を述べた後は職探しをする心づもりでいたわけだ。その時の不安は相当に大きいものだったという。だから就職先が決まっていることの有り難さが身に染みるのだそうだ。
「俺、ちゃんと働いて節約もするから! 黄のじいちゃんに家計のやりくりとかはしっかり教えてもらったもの。任せといて。それにさ、この生活に慣れたらいつかまた三人で住める家を買うこともできるじゃない?」
今はとにかく地道に働いて、少し余裕ができたら将来の夢も描けると言ってくれる。しかも夫婦二人で住むのではなく、当然のように真田も一緒にと思い描いていてくれる。周にはそんなあたたかい気持ちが身に染みるようだった。
「白龍は明日からもう出勤でしょ? 今日は早めに寝なきゃね」
「ああ。カネがこの近所の工事現場を紹介してくれたからな。通勤時間が掛からねえのが有り難い」
「うん、近くで良かった。俺の方も歩いて行ける図書館で働かせてもらえるって。明日は紫月さんが一緒に顔合わせに行ってくれることになっててさ。仕事は明後日からだから、白龍が帰って来る頃には晩御飯作って待ってるね。お昼は食材買って来たからお弁当ね。真田さんに教わって俺も何か一品くらい作れたらいいな」
周は道路工事の現場で働くので、冰としてはなるべく腹の足しになる弁当の算段なども思い描いているようだ。
「――冰」
クイと肩を抱かれ、大きな懐の中へと抱き締められた。
「――すまねえ」
「白龍……。ううん、そんなこと言わないで。俺、本当にあなたと真田さんといられれば幸せだもん。三人で楽しく暮らそ!」
「ああ……。ああ、そうだな」
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