極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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「で? ヤツらの様子はどうだ? 冰君にちょっかいなんか掛けてねえだろな」
 仕事の話になったと同時に鋭い視線を滾らせる。このあたりの切り替えぶりはさすがに極道の姐である。若い衆も思わずピンと背筋を伸ばして緊張の面持ちとなった。
「はい! そっちの方は心配ないッス。ヤツら、一応客のフリしてますから、本を選ぶような素振りが白々しいッスけど、冰さんには声を掛けちゃいません。ただジロジロ見てるんで、様子を窺ってるのは間違いないッスね」
「了解。んで、写真の方は撮れた?」
「はい、バッチリっす! けどアレですね、詐欺集団なんていうからもっとヤバそうな連中かと思ってたッスけど、見てくれは意外と普通ッスね。正直俺らとは畑が違うってーか、エリート集団って感じしますけど」
「なるほど、エリート集団ね。んじゃ、ちょいとカマ掛けてみっか」
 紫月はそう言うと若い衆の一人に手にしていたピンクチラシを半分分けて、ついて来いと目配せした。
 この辺りは一見閑静といえるが、少し歩けば駅近くの繁華街に出る。人通りもそれなりに多い。夜の商売のビラ配りをしていたとて特に不思議はないのだ。
 紫月は若い衆と共に通行人にビラを撒きながら敵が出てくるのを待った。
 しばらくすると三人が図書館から揃って出てきた。先程聞いた話の通りで、なるほどエリートサラリーマンといった雰囲気である。紫月はわざと彼らに背を向けながら、通行人らにビラを手渡してはウロウロとガラの悪い素振りで歩き始めた。
 ――と、そこへ通り掛かった三人の内の一人が、すれ違い様に肩をぶつけてきた。というよりも、わざと向こうからぶつかったような形に追い込んだのは紫月の方だ。ドスンと肩と背中が触れ合い様に、手にしていたピンクチラシの山を派手に道路へとぶち撒ける。むろんのこと、これもわざとである。
「おわッ! っ痛ってえな! 何しやがる!」
 極力品のない態度で紫月は男らに睨みをくれた。
「す、すみません……失礼を……」
 ぶつかった男は紫月の出立ちから、あまり関わりたくはない類の人間だと咄嗟に判断したようだ。存外素直に詫びの言葉を口にしてみせた。ところが紫月の方では到底許せまいとばかりに肩を鳴らして凄み掛かっていく。
「よー、どうしてくれんだって! こちとらでーじな商売道具をぶち撒かれたんだぜ! どう落とし前つけてくれんだ」
 路上に散乱したピンクチラシを指差しながら凄んでみせる。
「も、申し訳ありません……あの、す、すぐに拾います!」
 男たちは慌ててばら撒かれたチラシを拾い出したが、紫月の方は更に畳み掛けるように文句を並べてみせた。
「ごめんで済みゃケーサツはいらねえよなぁ。ちらし刷んのだって銭が掛かってんだ! ちゃーんと全部回収してくれよ!」
「は、はい! 申し訳ありません!」
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