極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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 どうやら三人が三人共、こういった雰囲気には慣れていないようだ。紫月の側には強面の若い衆も居るし、どうにか絡まれないようにしようと必死でチラシを拾い集めている。その間、誰もがうつむき気味でいて、紫月らとは極力視線を合わせたくないといった感情が窺えた。
 そうして三人はほぼすべてのチラシを拾い終えると、未だ視線を合わせないまま土下座の勢いで紫月にチラシを差し出してきた。
「も、申し訳ございませんでした……」
 それ以上は言葉にならないようだ。
「まあ今日のところはこれで勘弁してやらぁな。これからは気を付けろよ!」
 わざと凄みをきかせてそう言うと、男たちは蒼白なまま逃げるようにその場合を後にして行った。どうやら駅へと向かうようだ。その後ろ姿を見送りながら、
「よし、後を付けてくれ。帰ると見せ掛けて真田さんの方へ向かうかも知れねえから、俺はアパートへ先回りする!」
 紫月は若い衆らにそう頼むと、急ぎ真田のアパートへと向かった。ところが先程の脅しが効いたのか、彼らがやって来る気配はないようだ。
 少しすると追跡部隊から連絡が入って、男たちはそのまま駅の改札をくぐったとのことだった。
『姐さん、どうやらヤツらは素直に帰るようです。そっちはどうです?』
「ん、真田さんの方は異常なしだ」
『では我々はこのまま追跡します。ヤサが掴めたらまた連絡入れます!』
「おう! 世話掛けて済まねえが頼む」
 そのまましばらくアパートを見張ってから、紫月も事務所へと引き上げた。



◇    ◇    ◇



 彼らを尾行していた若い衆らから連絡が来たのは、それから一時間ほど経った頃だった。
『姐さん、こちら追跡部隊です。ヤツらのヤサを突き止めました。三人共、あのまま電車で帰って来ましたから、おそらく下っ端連中だったんでしょう。青山の、何とも豪勢なマンションの一室に入って行きましたぜ。今しがたヤツらと一緒に別の男が一人出て来て、今度は車で何処かへ向かうようです。我々はここを張る組とタクシー拾って追い掛ける組と二手に別れます。それから、ヤツらの会話を録音したので送ります。電車の中なんで聞きづらいところがあると思いますが、面白い話をしてくれてましたぜ! それじゃ、また報告させてもらいます』
「オッケー。ご苦労だったな」
 紫月は録音を受け取ると、引き続き組事務所で続報を待つことにした。
「どら、面白え会話ってのを聴いてみるか」
 早速に送られてきたボイスメモを再生する。確かに雑音が酷いが、話している内容自体は聴き取れた。

『……ったく、冗談じゃないってのよ! 何なんだあの街は!』
『あんなガラの悪いヤツらがウヨウヨしてるとは思わなかったぜ』
『ホント! ヤバかったよな。あいつら、堅気じゃないだろ。あの辺りのヤーサンか?』
『ヤーサンってよりはチンピラだろ? 派っ手な格好しやがって!』
『しかもセンス悪ッ! あれで格好いいと思ってんのかね?』
『そうじゃね? 超ダサいってのが分かんねえのかね?』
『けど、アレだよな。実際あれ以上絡まれなくてホッとしたけどさ。正直、もうあそこの巡回は勘弁してもらいたいよな』
『まあな……。またあんなのに絡まれるなんてぜってー御免だよ! 街の治安が悪過ぎる!』
『中橋さんには何て言う? あの連中は生活に必死って感じだったから心配は要らないって報告しとかねえ?』
『ああ、それがいいな。実際、社長の方はドカタの日雇いやってるくらいだし、会社取り戻すどころの余裕は全然無いように見えたしな』
『秘書の方も図書館勤務だろ? 気も弱そうなヤツだったし、あれじゃ報復で会社取り戻すなんて脳はねえって』
『そうそう! 爺さん婆さん相手にニコニコしてよー。親切な方だとかって褒められてたじゃん。商社にいるよかよっぽど似合ってるって感じ』
『よく今まであんなデカい商社のトップでいられたもんだ。そっちの方が不思議!』
『案外アレじゃね? 表向きは立派に見えても、中はカツカツだったのかも』
『だな! そんじゃ、あそこは心配ねえってことで中橋さんに伝えようぜ!』
『ああ、そうしよう』

 どうやら降車駅に着いたようだ、ボイスメモはそこで終わっていた。
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