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倒産の罠
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「は、なるほど面白えこと抜かしてくれて!」
紫月は苦笑ながらも思惑通りに運んだことに笑みを浮かべた。これで頻繁に様子を探りに来ることもなくなるだろう。それにしても、冰は相変わらずに優しい性質のようだ。彼らの会話にもあったように、図書館に来る老人たちにも親切に接しているのが窺える。そんな彼のことを思えば、できることは何でもして力になってやりたいと思う紫月だった。
しばらくすると再び若い衆から報告がきた。追尾中のタクシーの中からのようで、今度は電話でなくメッセージで届く。
『姐さん、どうやらヤツらは汐留方面へ向かっている様子です。もしかしたらアイスカンパニーへ行くつもりかも知れません』
「……汐留だって? 野郎……早速乗っ取った社で我が物顔かよ」
一連の出来事が囮だとは知らない紫月は腹立たしさに拳を握り締める。すぐさま鐘崎へと知らせることにした。
「遼、俺だ。ついさっき例のヤツらが氷川と冰君を探りにやって来た。うちの若いのが後をつけてくれて、ヤサのひとつを掴めたようだ。その後すぐに汐留方面へ向かったって話だから、もしかしたら乗っ取ったアイス・カンパニーに行くつもりなのかも!」
紫月は鐘崎がその汐留の社長室にいるなどとは夢にも思っていないので、とにかくは偵察部隊が現れたことを報告する。
「ヤサは青山のマンションだそうだ。そっちにも若い連中が張り込んでくれてっから!」
もしも合流できるようならしてやってくれと伝える。
『分かった。ヤサが掴めただけでも大手柄だ。よくやってくれた』
「そいから……ヤツらの映像も撮れたから!」
今から送ると言ってパソコンを立ち上げた。
『了解した。俺はこれからその映像を持って丹羽に届ける。青山のヤサの方は――足労だが引き続き若いヤツらに張っておいてもらってくれ』
鐘崎の立場からすればそうとしか言いようがない。紫月のことまで騙しているようで胸が痛むものの、これはシークレットミッションゆえ忍耐どころだ。
『おめえもご苦労だったな。俺の方は今夜もちょっと遅くなるやも知れん。丹羽に会ったら青山のヤサの方へも回ってみる』
「うん、了解。遼も気ィつけてな!」
『ああ、さんきゅな紫月』
鐘崎からは、後は上手くやると言って通話は切られた。手元の時計を見れば夕刻である。
「さて……と。そろそろ氷川たちも仕事上がる頃だな。んじゃ、俺ん方は冰君迎えに行きがてら氷川に報告しとくか」
紫月は紫月で、周らとの連携を取るべく事務所を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
その頃、汐留では鐘崎が紫月から受けた知らせを曹へと報告していた。
「周焔の暮らしぶりを偵察にやって来たヤツらをつけて、ヤサのひとつを突き止めたそうです。汐留方面へ移動しているようですから、今からここへ報告にやって来るのではないかと」
「ご苦労だったな。これでここ日本で動いている敵の一部とコンタクトが叶うだろう」
これまで曹が会ったことのある相手は、すべて香港を拠点に動いている連中だった。最初に潜入した先が香港で乗っ取られた企業だったからだ。
「実際に乗っ取られた企業の数という点ではアジア圏で一番多いのがここ日本だ。香港や台湾でも引っ掛けられてはいるが、日本と比べればごく少数だ。我々はおそらく敵の本拠地はここ日本にあると見ている」
「そうですね。被害の数でいえば日本がダントツだ。ということは敵の中枢は日本人の可能性が高いということでしょうか」
「まだ断定はできないが、それも今から来るだろうヤツらと会えばおおよその見当はつけられるかも知れない。遼二、隠しカメラの方はどうだ?」
「万全です。映像、音声共に気付かれることなく収集できるよう李さんと劉さんが準備してくれています」
「よし。では我々は可能な限り敵中枢に関する情報を聞き出すとしよう。遼二、頼んだぞ」
「承知!」
しばらくすると受付から面会希望の知らせが届いた。いよいよ敵との対面である。
紫月は苦笑ながらも思惑通りに運んだことに笑みを浮かべた。これで頻繁に様子を探りに来ることもなくなるだろう。それにしても、冰は相変わらずに優しい性質のようだ。彼らの会話にもあったように、図書館に来る老人たちにも親切に接しているのが窺える。そんな彼のことを思えば、できることは何でもして力になってやりたいと思う紫月だった。
しばらくすると再び若い衆から報告がきた。追尾中のタクシーの中からのようで、今度は電話でなくメッセージで届く。
『姐さん、どうやらヤツらは汐留方面へ向かっている様子です。もしかしたらアイスカンパニーへ行くつもりかも知れません』
「……汐留だって? 野郎……早速乗っ取った社で我が物顔かよ」
一連の出来事が囮だとは知らない紫月は腹立たしさに拳を握り締める。すぐさま鐘崎へと知らせることにした。
「遼、俺だ。ついさっき例のヤツらが氷川と冰君を探りにやって来た。うちの若いのが後をつけてくれて、ヤサのひとつを掴めたようだ。その後すぐに汐留方面へ向かったって話だから、もしかしたら乗っ取ったアイス・カンパニーに行くつもりなのかも!」
紫月は鐘崎がその汐留の社長室にいるなどとは夢にも思っていないので、とにかくは偵察部隊が現れたことを報告する。
「ヤサは青山のマンションだそうだ。そっちにも若い連中が張り込んでくれてっから!」
もしも合流できるようならしてやってくれと伝える。
『分かった。ヤサが掴めただけでも大手柄だ。よくやってくれた』
「そいから……ヤツらの映像も撮れたから!」
今から送ると言ってパソコンを立ち上げた。
『了解した。俺はこれからその映像を持って丹羽に届ける。青山のヤサの方は――足労だが引き続き若いヤツらに張っておいてもらってくれ』
鐘崎の立場からすればそうとしか言いようがない。紫月のことまで騙しているようで胸が痛むものの、これはシークレットミッションゆえ忍耐どころだ。
『おめえもご苦労だったな。俺の方は今夜もちょっと遅くなるやも知れん。丹羽に会ったら青山のヤサの方へも回ってみる』
「うん、了解。遼も気ィつけてな!」
『ああ、さんきゅな紫月』
鐘崎からは、後は上手くやると言って通話は切られた。手元の時計を見れば夕刻である。
「さて……と。そろそろ氷川たちも仕事上がる頃だな。んじゃ、俺ん方は冰君迎えに行きがてら氷川に報告しとくか」
紫月は紫月で、周らとの連携を取るべく事務所を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
その頃、汐留では鐘崎が紫月から受けた知らせを曹へと報告していた。
「周焔の暮らしぶりを偵察にやって来たヤツらをつけて、ヤサのひとつを突き止めたそうです。汐留方面へ移動しているようですから、今からここへ報告にやって来るのではないかと」
「ご苦労だったな。これでここ日本で動いている敵の一部とコンタクトが叶うだろう」
これまで曹が会ったことのある相手は、すべて香港を拠点に動いている連中だった。最初に潜入した先が香港で乗っ取られた企業だったからだ。
「実際に乗っ取られた企業の数という点ではアジア圏で一番多いのがここ日本だ。香港や台湾でも引っ掛けられてはいるが、日本と比べればごく少数だ。我々はおそらく敵の本拠地はここ日本にあると見ている」
「そうですね。被害の数でいえば日本がダントツだ。ということは敵の中枢は日本人の可能性が高いということでしょうか」
「まだ断定はできないが、それも今から来るだろうヤツらと会えばおおよその見当はつけられるかも知れない。遼二、隠しカメラの方はどうだ?」
「万全です。映像、音声共に気付かれることなく収集できるよう李さんと劉さんが準備してくれています」
「よし。では我々は可能な限り敵中枢に関する情報を聞き出すとしよう。遼二、頼んだぞ」
「承知!」
しばらくすると受付から面会希望の知らせが届いた。いよいよ敵との対面である。
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