極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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 応接室にやって来たのは三人の男たちだった。内二人は紫月から送られてきた画像にあった人物だ。周と冰を偵察に来た者だろう。もう一人は見ない顔だったが、他の二人が丁寧にしているところを見ると、この男が上役なのだろうことはすぐに察しがついた。一目で信用に足りないような悪人面かと思いきや、見た目だけでいえば案外常識がありそうな普通のサラリーマンといった雰囲気で、一応のところは丁寧な態度を装っているようだ。
「どうも、初めまして。あなたが曹田さんですか?」
「ええ、曹田来人です。こちらは秘書の――」
「金山理央です」
 曹来は曹田来人、鐘崎は金山理央、当然のことながら偽名である。相手の男も「中橋です」と名乗った。
 中橋――ということは、先程紫月からの情報にあった『中橋』当人なのだろう。偵察組の三人が『中橋さんに報告する』と話していたことだし、まずまずの立場であることは間違いない。曹は彼ら三人にソファを勧めると、太々しいくらい堂々とした態度で自らも対面に腰を下ろした。
「どうです、この社は。なかなかのものでしょう」
 乗っ取りに成功したのは自分の手腕だとばかりに不適な笑みを見せる。そんな曹に中橋と名乗った男たちも一目置いている様子だ。
「ええ、大したものですね。まさかこんな大企業の乗っ取りを本当に成功させてしまうとは……我々のボスも驚いていましたよ」
「それは光栄」
 曹はフフンと薄く笑いながら、余裕の仕草で煙草に火を点けては堂々と脚を組んでみせた。
 中橋も中橋で、負けず劣らずの高飛車な態度ながらも、ここを乗っ取った曹の手腕にだけは素直に感心しているふうだ。
「今さっきウチの連中がここの社長だったって男の生活ぶりを視察してきたんですがね。社長は日雇い労働者として工事現場で働いているって話です。秘書の方は図書館勤務だとか。しかしアレですな、こんな大きな企業の社長なんていうからには、なにも日雇いで働かなくたって当座暮らせる現金くらいは持ち合わせていると思ってましたけどね」
 中橋はそこのところだけは胡散臭いと首を傾げている。曹は曹で、何をぬかすとばかりに腹の中では苛立ちを募らせる。当座暮らせる余裕ぶりを確認すればしたで、強盗に入るつもりなのだろうと思うとはらわたが煮え繰り返る思いがするからだ。だがそんな思いは微塵も見せずに相変わらずに余裕の態度で、クスリと笑ってみせた。
「大企業のトップといえど、皆が皆金持ちとは限りませんよ。社を運営している内はそれなりに自由も効くでしょうがね。裕福そうに見えても実際は株を所有しているだけで、いざ社から離れれば個人的に自由になる金があるとばかりは言い切れない。私はね、ここを乗っ取る時にそういった資産の状況まできちんと調べ上げていますからね。まずは彼らが何とかして社を守り通そうと、所有していた私財をすべて手放した頃合いを見計らって畳み掛けたわけです。当然箪笥預金なども残っていないはず。日雇いで働いていたとして特に驚きはしませんね」
 逆にそれで当然でしょうと言って微笑む。中橋には今一理解できないわけか、僅か戸惑ったような顔つきでいたが、一応は納得したように調子を合わせてよこす。察するにこの男はさほどこういったことに詳しくはないのだろう。彼がボスという男に指示されて動いているだけなのは明らかと思われる。
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